従来のベンゾジアゼピン系や非ベンゾ系(いわゆるZ薬)と作用機序が大きく異なり、近年、依存や翌日への影響を軽減できる可能性から注目されています。以下にメリットとデメリットを整理します。
【メリット】
1. 自然な睡眠構造の維持
ベンゾジアゼピン系はGABA受容体を介して脳全体を鎮静させるため、ノンレム・レム睡眠のバランスが変化し、深い睡眠(徐波睡眠)が減少することがあります。
オレキシン受容体拮抗薬は覚醒のスイッチをオフにする作用に近く、睡眠構造の変化が少ないとされ、より自然に近い睡眠が得られる可能性があります。
2. 依存性が低い
従来の睡眠薬は長期使用で耐性や依存が問題になりますが、DORAは依存や離脱症状のリスクが低いと考えられています。
3. 筋弛緩作用や健忘が少ない
ベンゾ系に見られる筋弛緩による転倒リスクや、服薬後の記憶障害(前向性健忘)が少なく、高齢者にも比較的安全に使いやすいとされます。
4. 翌朝の眠気やふらつきが比較的軽減
半減期は薬剤によって異なりますが、適正量であれば翌日の持ち越し効果が少ないと報告されています(ただし高齢者や代謝低下時には残ることがあります)。
5. 新規作用機序による選択肢拡大
既存のGABA系薬で十分な効果が得られない患者や、副作用で中止せざるを得なかった患者に新たな治療選択肢を提供します。
【デメリット】
1. 即効性がやや弱い場合がある
即座に強い眠気を誘発するタイプではなく、自然な入眠に近いため「効きが弱い」と感じる人もいます。
不眠の原因が強い不安や疼痛などの場合、単剤で効果が不十分なことがあります。
2. 悪夢・生々しい夢の増加
レム睡眠の抑制が少ないため、夢の内容を覚えていることが増え、悪夢として自覚する場合があります。
3. 翌日の眠気・注意力低下
特にレンボレキサントは半減期が長く(約17〜19時間)、高用量や高齢者では翌日の眠気や集中力低下が生じる可能性があります。
自動車運転などの注意が必要です。
4. 服薬タイミングの制限
空腹時の服用が推奨されます。高脂肪食と一緒に摂ると吸収が遅れ、効果発現が遅くなることがあります。
5. 長期安全性の知見はまだ限定的
ベンゾ系に比べ歴史が浅く、数年単位の長期服用による影響は完全には解明されていません。
認知症やうつ病など併存症への長期影響も研究途上です。
【まとめ】
オレキシン受容体拮抗薬は、「自然な睡眠を促す」「依存リスクが低い」「高齢者でも使いやすい」といった利点があり、特に長期的な不眠治療や安全性重視の場面で有用です。
一方で、即効性の弱さ、服薬タイミングの制約、価格、そして長期安全性の不透明さといった課題も残ります。臨床では、患者の年齢、生活リズム、不眠の背景に応じて、従来薬や他の治療法と適切に使い分けることが重要です。