広場恐怖症の治療は、薬物療法と心理療法を組み合わせて行うことが推奨される。症状の背景に生物学的要因と学習理論的要因が複合的に関与しているため、両面からの介入が有効となる。
【薬物療法】
薬物療法の第一選択は、抗うつ薬、特に”選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)”である。セロトニン神経伝達を増強することで、扁桃体や前頭前皮質に作用し、不安の過活動を抑制する。実際に広場恐怖症やパニック症に対する有効性が多数の臨床試験で確認されている。代表的な薬剤として、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラムなどがある。またセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)も有効性が報告されており、ベンラファキシンなどが用いられる。
これらの薬剤は効果発現まで数週間を要するため、導入初期に不安が強い場合は短期的にベンゾジアゼピン系抗不安薬を併用することもある。ただし依存性や耐性のリスクがあるため、長期連用は避ける必要がある。
【心理療法】
心理療法の中心は認知行動療法(CBT)である。CBTでは、恐怖や不安を引き起こす認知の歪みを修正し、回避行動を減らすことを目的とする。その中でも曝露療法(エクスポージャー法)が特に有効であり、患者が恐怖する状況に段階的に曝露することで、恐怖が実際には過大評価されていることを学習する。曝露の方法には「段階的曝露」と「一気に曝露(フラッディング)」があるが、実臨床では前者が多い。曝露を繰り返すうちに条件づけられた恐怖反応が弱化し、不安は次第に軽減する。これを「消去学習」と呼ぶ。また、予期不安への認知的介入として「発作が起きても必ずしも危険ではない」「不安は必ずピークを過ぎて下がる」といった認識を形成することも重要である。
さらに、呼吸法やリラクセーション技法を取り入れることで、自律神経系の過剰な反応を調整できる。近年はインターネットを活用したオンラインCBTや、VRを用いた曝露療法も開発され、広場恐怖症治療の選択肢が拡大している。薬物療法と心理療法を併用した場合、相乗効果により寛解率が高まることが知られている。
治療経過では、症状改善に伴い徐々に回避範囲を広げていく支援が重要である。家族には、過度に回避行動を容認せず、適度に曝露を支援する役割が求められる。また慢性化例では抑うつ症状や社会的機能低下を合併することが多いため、長期的視点での支援が必要となる。
まとめると、広場恐怖症の治療は、SSRIやSNRIを中心とした薬物療法と、曝露を核とした認知行動療法を両輪として進めることが効果的である。両者は病態理解に基づき相互補完的に働き、患者が恐怖を克服し、自立した生活を取り戻す基盤を提供する。