-精神科コラム- 2025年9月

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パニック症の治療 ~不安に振り回されないために~ -2025年9月8日-

「電車の中で突然、心臓がバクバクして息が苦しくなった」「このまま死んでしまうのではと恐怖に襲われた」――そんな体験をきっかけに病院を訪れる方が少なくありません。これは「パニック発作」と呼ばれる症状で、繰り返すようになると「パニック症(パニック障害)」と診断されます。

この病気は「心の弱さ」ではなく、脳の働きや神経伝達のバランスが崩れることで起こるれっきとした病気です。放っておくと「また発作が出たらどうしよう」と電車や人混みを避けるようになり、生活の範囲がどんどん狭まってしまいます。しかし、適切な治療を受ければ多くの方が回復し、再び安心して暮らせるようになります。

薬による治療

まず中心となるのは「抗うつ薬」と呼ばれる薬です。特にSSRIというタイプは、脳内のセロトニンという物質の働きを整え、不安や発作を起こりにくくします。飲み始めてすぐに効果が出るわけではありませんが、2〜4週間ほどで少しずつ発作が減っていきます。副作用として胃のむかつきや下痢、不眠などが出ることもありますが、多くは一時的で慣れていきます。

また、発作がどうしてもつらい時には「抗不安薬」を補助的に使うことがあります。これは即効性がある反面、長く使い続けると依存の問題があるため、必要なときに限って短期間だけ処方されるのが一般的です。

心のトレーニング(認知行動療法)

薬と並んで効果が証明されているのが「認知行動療法(CBT)」です。簡単に言えば「発作=命の危険ではない」と体で覚え直していく訓練です。

例えば、発作の時によくある「息苦しさ」や「動悸」をあえて再現してみて、「怖いけれど実際には危険ではない」と体験を通じて理解します。さらに、避けていた電車やエレベーターに少しずつ挑戦する「曝露療法」も行います。こうした練習を繰り返すと、不安の悪循環が断ち切られ、「また発作が来るかも」という恐れが少しずつ弱まっていきます。

日常生活の工夫

治療を助けるためには生活習慣も大切です。カフェインやアルコールの摂りすぎは発作を悪化させることがあります。十分な睡眠、バランスの良い食事、軽い運動を心がけるだけでも、不安の背景にある自律神経のバランスが整いやすくなります。

回復への道のり

治療を始めて数週間から数か月で発作は落ち着き、半年〜1年ほどかけて安定した状態を目指します。その後は薬を少しずつ減らし、最終的には中止できる人も多くいます。心理療法を組み合わせると、薬をやめた後の再発も防ぎやすくなることが分かっています。

パニック症はつらい体験ですが、決して珍しい病気ではありません。きちんと向き合えば必ず改善していきます。「また発作が来たらどうしよう」と一人で悩まず、心療内科や精神科を早めに受診することが、安心して生活を取り戻す第一歩になるのです。

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