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アルコールとメンタル疾患 -2025年1月15日-

あけましておめでとうございます。
年末年始、ゆっくり過ごせましたでしょうか?今回はアルコールの話になります。
アルコールとメンタル疾患の関係は、非常に複雑で多面的です。アルコールは一時的に気分を高揚させることがありますが、長期的に見ると精神健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。そのため、アルコールとメンタル疾患の関連について説明します。

1. アルコールとメンタル疾患の関係

アルコールは中枢神経系に作用し、リラックス感や一時的なストレス解消をもたらすことがあります。しかし、過度の飲酒や長期間のアルコール依存は、精神疾患を引き起こすリスクを高めることが研究で示されています。アルコールが精神状態に与える影響は、個人差がありますが、いくつかの主要な精神疾患との関連が指摘されています。

2. アルコール依存症とメンタル疾患

アルコール依存症は、精神疾患の一つであり、アルコールを過度に摂取し続けることで身体的、心理的な依存が生じます。アルコール依存症は、うつ病や不安障害、精神的な健康問題を引き起こす要因となることがあります。アルコール依存症を持つ人々は、精神的な健康問題に対処するためにアルコールを使う場合もありますが、アルコール自体が精神疾患のリスクを高めることが分かっています。

3. アルコールとうつ病

アルコールと最も関連の深い精神疾患の一つがうつ病です。アルコールは脳内の神経伝達物質に影響を与え、長期的な飲酒は神経機能を低下させる可能性があります。これがうつ症状を引き起こしたり、既存のうつ病を悪化させる原因となることがあります。アルコールを過剰に摂取することで、一時的に気分が良くなったように感じても、翌日に落ち込むことが多く、そのためうつ病の症状が進行することがあります。

4. アルコールと不安障害

不安障害は、アルコールと関連が深いもう一つの精神疾患です。アルコールは一時的に不安感を和らげることがありますが、アルコールが体内で分解されると、逆に不安を引き起こすことが多くあります。アルコール依存症のある人々は、アルコールを摂取することで一時的に不安感を解消しようとする一方で、長期的には不安症状が悪化することが一般的です。

5. アルコールとその他の精神疾患

アルコールはまた、精神的な障害を引き起こすその他の要因と相互作用することがあります。例えば、統合失調症などの重篤な精神病の場合、アルコールの摂取は症状を悪化させる可能性があります。さらに、アルコールと睡眠障害も関連があり、アルコールによって睡眠の質が低下し、精神的な疲労感やストレスが増大することがあります。

6. アルコールとメンタル疾患の治療

アルコール依存症と精神疾患の治療は、個別に行うことが一般的ですが、双方を考慮した統合的な治療が必要です。薬物療法や認知行動療法、グループ療法などが有効です。特に、精神疾患とアルコール依存症が同時に存在する場合には、治療のアプローチが一層重要になります。アルコールを止めることが精神疾患の症状を軽減する場合もありますし、逆に精神疾患の治療がアルコールの摂取を減少させる場合もあります。

7. 予防と支援

アルコールと精神疾患の予防には、早期の支援が重要です。アルコールを過度に摂取している段階で、専門家によるカウンセリングや支援が効果的です。また、ストレス管理や健康的なライフスタイルを促進することで、アルコールの摂取を控えることができます。家族や友人の支援も重要で、アルコール依存症の早期発見と介入が、精神的な問題の予防に役立ちます。

【まとめ】
アルコールと精神疾患は密接に関しており、過度な飲酒は精神健康を悪化させることがあります。アルコール依存症やうつ病、不安障害の精神疾患を発症するリスクが高まるため、早期予防と適切な治療が重要です。
そのためは、普段からアルコールの摂取量を管理し、場合によっては必要な支援をうけることも重要です。

不安障害(不安症) -2025年1月22日-

不安障害(不安症)とは、分かりやすくいうと強い不安感や恐怖心によって、生活に支障がでている状態をいいます。不安障害の症状の表れ方はさまざまです。例えば「人前でスピーチをしようとすると、身体が震えて話せなくなる」といった症状が挙げられます。

不安障害は、決して本人の努力不足や甘え、性格によって引き起こされるものではありません。
職場や日常のさまざまな場面で不安を感じる症状が表れます。また、会社や家庭のことだけでなく、例えば、自然災害や紛争など、自分に直接関係すること以外も含めて、あらゆるものが不安の原因となることがあります。 

不安障害(不安症)につながる要因といわれているものを「身体的な状態」「精神的な状態」に分けて紹介します。

 

身体的な状態

身体的な疾患やそれに伴う薬の使用など、身体的な状態が影響して不安障害(不安症)が発症することがあるといわれています。

身体的な疾患としては「心不全」「不整脈」などの心臓の疾患や、ホルモン(内分泌系)の疾患、喘息などの呼吸器系の疾患などがあります。また、さまざまな疾患に対して薬の使用や、薬を中止したときの離脱症状によっても不安が生じる可能性が考えられています。

 

精神的な状態

何かストレスとなる出来事や場面に遭遇して、強く不安を感じることが多いなど、精神的な状態も不安障害(不安症)の要因になると考えられています。
ストレスは人前で話すといった日常的に感じることもあれば、災害など大きな出来事に遭遇して強く感じることもあります。しかし、同じ場面でもどの程度不安を感じるかは人それぞれ異なっています。人前で話すことに強い不安を覚える方もいれば、逆に楽しみを感じる方もいます。
そういった場面に慣れることや対処法を身につけていくことによっても変わってくるでしょう。

【全般不安症の診断基準】

全般不安症では、日常生活の多くの出来事、または活動において、まだ起きてもいないうちから、過剰な不安や心配を感じる状態となります。
この時、焦燥、注意散漫、集中困難、緊張、疲労、易怒性、睡眠障害などの症状がみられ、社会生活や職業生活に問題が生じることがあります。また、その状態が6ヶ月以上続きます。

 

薬物療法

不安障害(不安症)の発症には、うつ病と同じく「セロトニン(脳内の神経伝達物質)」が、影響しているといわれています。
そのため、薬物療法では抗うつ剤や抗精神病薬が使われます。

 

精神療法

精神療法によって、柔軟な思考ができるようになることで、ストレスや不安を和らげる効果に期待できます。

 

【不安障害(不安症)の対処法や対策は?】

1,医師へ相談する

かかりつけの医師に、日常生活や症状のことだけでなく「どのような仕事をしているのか?」や「職場の環境について」なども伝えておくことをおすすめします。また「話を聞いてもらっている」という状況が、不安を減らすことへもつながるため、気になることがあった場合は医師に相談してみるといいでしょう。

2.生活習慣を見直す

栄養バランスを考えた食事や十分な睡眠、適度な運動などは、身体だけでなく心を整えるためにも大切な要素です。とくに、生活リズムが乱れてしまうと、夜に眠れなくなったり、体調が悪くなったりする可能性があるため要注意です。
食事の時間や睡眠時間はなるべく一定に保つように心掛けましょう。

3.リラックス方法を見つけておく

少しでも「不安な状態になりそう」と感じたら、すぐにリラックス方法を実践しましょう。
例えば「深呼吸をする」「ストレッチをする」などが挙げられます。とくに深い呼吸は、リラックスに影響する副交感神経の働きを良くする効果があるため、日常的に取り入れるとよいでしょう。

オレキシン受容体拮抗薬(睡眠薬) -2025年1月30日-

オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシンという神経伝達物質の働きをブロックする薬です。オレキシンは、睡眠と覚醒を調節する役割を果たしており、特に覚醒状態を促進する作用があります。このため、オレキシン受容体拮抗薬は、睡眠障害、特に不眠症の治療に使用されることがあります。

主な作用

オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシンが結びつくオレキシン受容体(オレキシン1受容体とオレキシン2受容体)をブロックします。これにより、オレキシンの覚醒を促進する作用が抑えられ、眠気が引き起こされやすくなり、睡眠を助ける効果があります。

メカニズム

オレキシン(またはヒポクレチン)は、覚醒を維持する役割を持つ神経伝達物質です。脳内でオレキシンは、オレキシン1受容体(OX1R)およびオレキシン2受容体(OX2R)という受容体に結合して働き、覚醒状態を維持します。オレキシン受容体拮抗薬はこれらの受容体をブロックすることによって、オレキシンの覚醒を促進する作用を抑え、自然な睡眠を誘発します。

具体的には、オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシン1および2受容体に結合し、その信号伝達を遮断することで、睡眠を促進し、覚醒状態からの移行を助けます。この作用により、特に夜間に眠りやすくなります。

副作用

オレキシン受容体拮抗薬は比較的安全な薬とされていますが、眠気や頭痛、めまい、口渇などの副作用が出ることもあります。長期使用しても問題ないとされています。

スボレキサント(suvorexant)

スボレキサント(商品名:ベルソムラ)は、オレキシン受容体拮抗薬の代表的な薬です。スボレキサントは、オレキシン1受容体(OX1R)とオレキシン2受容体(OX2R)の両方に作用する薬です。

  • 作用機序: スボレキサントは、オレキシン1およびオレキシン2受容体を競合的にブロックすることで、オレキシンの作用を抑えます。これにより、覚醒状態が抑制され、眠気が促進されます。
  • 使用目的: 不眠症の治療に用いられ、特に入眠困難や睡眠維持の問題を持つ患者に効果があります。効果は比較的穏やかで、依存症のリスクが低いとされています。
  • 副作用: 眠気、頭痛、めまい、吐き気、倦怠感などがありますが、長期的な使用に関するデータは十分でないため、注意が必要です。

レンボレキサント(lemborexant)

レンボレキサント(商品名:デエビゴ)は、スボレキサントと同様にオレキシン受容体拮抗薬であり、オレキシン受容体1および2に作用します。しかし、スボレキサントと比べて、レンボレキサントは受容体に対する親和性や作用の持続時間にいくつかの違いがあります。

  • 作用機序: レンボレキサントもオレキシン1および2受容体を競合的にブロックすることによって、オレキシンの働きを抑制し、眠気を引き起こします。スボレキサントと同様、眠りを助ける働きがあります。
  • 使用目的: 不眠症の治療に使用され、特に入眠困難や夜間の目覚めに悩んでいる患者に効果的です。スボレキサントに似た作用を持ちながら、少し異なる薬理特性があります。
  • 副作用: 眠気、頭痛、倦怠感、吐き気、めまいなどがありますが、依存性や乱用のリスクは低いとされています。

スボレキサントとレンボレキサントの違い

  1. 作用の持続時間:
    • スボレキサントは比較的長時間作用する一方、レンボレキサントは作用がやや短く、速やかに効果が現れる特徴があります。
  2. 親和性の違い:
    • 両薬剤はオレキシン1およびオレキシン2受容体に結合して作用しますが、レンボレキサントはスボレキサントと比べて、オレキシン2受容体に対する親和性がわずかに高いとされています。

社交不安障害 -2025年2月4日-

社会不安障害は、人からの注目や人と接することへの緊張が過度となり、心身や生活に様々な支障がおよぶ病気です。

人前でまったく緊張しない人はめったにいませんし、人前が苦手、緊張しやすい等のシャイな性格傾向がある人は多いです。ですがその苦痛が強いと感じる場合には、それは自然な緊張や性格ではなく、社会不安障害という病気の「症状」の可能性があります。

この病気では、苦手な社会シーンになると、

l  緊張のあまり手がふるえる

l  冷汗が大量に出る

l  声が上ずってしまう

l  頭が真っ白になる

 

といった自律神経症状が伴い、元々感じている苦手意識の上に「こんな反応をしておかしい奴と思われていないだろうか?」「相手が不快に感じてはいないだろうか?」といった思考からエスカレートしてしまいます。

社会不安障害の方が苦手意識を感じやすい社会シーン

l  人前で話す、発表をする、プレゼンなど

l  人との雑談

l  人目に触れる場所での飲食、会食

l  人前で字を書く

l  電話対応

 

不安や緊張でおこりやすい自律神経症状の例は、赤面が特徴です。

そのほかでも、

l  動悸

l  息苦しさ

l  めまいや吐き気

l  手足がふるえる

l  ひどく汗をかく

 

社会不安障害は「性格」ではありません。

このような社会不安障害ですが、本人や周りが「性格」ととらえていることが非常に多いです。生きづらさは感じながらも、性格だから仕方がないと割り切っている方も少なくありません。

「ビビり」や「緊張しい」といった性格と思い込んでいることが多いです。人前に立つ機会を避けてしまったり、職業選択などにも影響することもあります。

また「人見知り」や「引っ込み思案」な性格と思い込んでいることが多いです。不安や恐怖を感じることはできるだけ避けて生活をするようになり、ひきこもりや不登校といった形で、生活に影響が出てくることもあります。
このように社会不安障害は、性格ではなく症状と考えて治療をしていくことで、生き方が変わる可能性を秘めている病気です。

【社会不安障害の診断基準(DSM-5)】

DSM-5の『社会不安障害・社会恐怖』の診断基準は以下のようになっている。 

  • 他の人からの詮索の対象となりそうな社会生活場面で起こる顕著な恐怖・不安で、そのような場面が1つあるいはそれ以上ある。例として、対人交流場面(会話・あまり親しくない人との雑談)、人目を引く場面、人前での行動場面(他人の前での板書・発言・飲食など)。子供の場合は、常に不安は同世代の仲間といる時に起こり、大人の中では起こらない。
  • 自分の取る行動や不安な態度が変に思われるのを恐れる。(例えば、恥ずかしく感じたり、誰かに恥ずかしい思いをさせる。他人から拒絶・嘲笑されたり、誰かに不快感・苛立ちを与えるなど)
  • その社会生活場面はほとんど常に恐怖や不安を引き起こす。
    子供の場合は、恐怖・不安は泣く、癇癪を起こす、しがみつく、竦む、震える、言葉がでないなどで表現されることが多い。
  • その社会生活場面を回避する、あるいは強い恐怖や不安を持ちながらひたすら我慢する。
  • 恐怖や不安は、その社会生活場面が持つ実際の脅威やその社会の文化的文脈にそぐわない。
  • 恐怖、不安、あるいは回避は一般には6ヶ月以上続く。
  • 恐怖、不安、あるいは回避は臨床的に大きな苦痛であり、また、社会上や職業上、あるいは他の重要な領域の機能の妨げとなる。
  • 恐怖、不安、回避は物質(依存性薬物・医薬品)による生理学的反応や他の身体疾患によるものではない。
    他の身体疾患(例えば、パーキンソン病、肥満、火傷や外傷による傷跡)が存在しても、恐怖、不安、回避はそれとは関係せず、その症状が顕著である。

【社交不安障害の治療】
社会不安障害の治療は、生活への支障の大きさをもとに大きく2つの方針にわかれます。

l  レスキューのお薬でしのいでいく

l  お薬をしっかりと使って精神療法を積み重ねていく

 

苦手な状況だけしのげるようにするというのも一つの考え方です。
しかしながら不安の頻度が多かったり、生き方に影響している場合は、しっかりとお薬を使って治療を進めていった方が良いと思います。社交不安障害は治療のできる病気です。治療によって長年の苦痛や不自由から解放され、人生の流れが大きく変わっていく患者さんもいます。
社会不安障害はお薬の効果も期待することができます。お薬によってつらい症状がコントロールできるようになると、少しずつ苦手なシーンに挑戦し、上手な不安との付き合い方を身につけていく精神療法を重ねていきます。そして生活習慣が乱れると症状が悪化しやすいので、生活習慣を整える努力も必要です。

社会不安障害の治療には、ある程度の時間や積み重ねが必要です。同じ社交不安障害であっても、目指すゴールは人によって違います。それぞれの性格、生活環境、重症度などに合わせ、無理のない範囲で焦らず治療を続けていくことが克服の大きなポイントです。

  抗うつ剤(SSRI)

社交不安障害では偏桃体の働きを正常化させるために、セロトニンを増加させる作用の強い抗うつ剤が使われます。抗うつ剤はいずれもセロトニンを増加させる作用がありますが、とくにSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)というお薬が良く使われます。

l  パキシル(一般名:パロキセチン)

l  ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)

l  レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)

l  ルボックス/デプロメール(一般名:フルボキサミン)

②抗不安薬

効果の実感までに時間のかかる抗うつ剤に対し、抗不安薬では即効性が期待できます。不安や緊張を落ちつける効果が期待できます。
このため、不安が強まった時のお守りとしても使われますし、抗うつ剤の効果が出てくるまでの間の症状を緩和させるために使われます。

即効性を期待する場合によく使われるのは、

l  リボトリール/ランドセン(一般名:クロナゼパム)

l  レキソタン(一般名:ブロマゼパム)

l  デパス(一般名:エチゾラム)

l  ワイパックス(一般名:ロラゼパム)

l  ソラナックス/コンスタン(一般名:アルプラゾラム)

になります。

  精神療法

お薬の治療によって不安や恐怖、身体の症状がある程度コントロールできるようになると、不安と上手に付き合うための精神療法を積み重ねていくことが必要になります。

苦手意識や回避の行動パターンは長年積み重ねられたものなので、すぐにはよくなりません。お薬でコントロールしながら、少しずつそれを当たり前にしていきます。

社交不安障害の人は根本的に「より良く生きたい」「多くの人に認められる存在でありたい」という高い欲求を持っていたり、周囲との調和を重視したりする性格が下地にあることが多く、その分社交の場で緊張がかかりやすい傾向があります。

強迫性障害 -2025年2月10日-

強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder: OCD)は、反復的で持続的な思考(強迫観念)や行動(強迫行為)が特徴的な精神疾患です。この疾患は、疾患にとって非常に苦痛を伴い、日常生活や社会的な機能に深刻な影響を及ぼすことがあります。強迫性障害は、思考と行動が以上に繰り返されることにより、患者が不安や恐れを感じ、これを回避しようとすることでさらに脅迫行為を繰り返すという悪循環に陥ることが多いです。
強迫観念は、耐え難い不安を引き起こす思考やイメージであり、患者はその思考が無意味だと理解しているものの、制御できません。例としては、手を洗わないと病気になるのではないかという恐怖や、物が正しく並んでいないと不安になるといった内容が挙げられます。これらの思考が何度も頭に浮かび、消すことができないため、患者はこれを軽減するために強迫行為に頼りがちになります。
強迫行為は、強迫観念から生じる不安を和らげるために行われる反復的な行動です。例えば、手を何度も洗う、物を決まった順番で並べる、ドアの鍵を何度も確認するなどの行為が含まれます。患者はこれらの行為を繰り返すことで不安を軽減しようとしますが、行動の結果は一時的なものであり、長期的には症状が改善することはありません。
強迫性障害は、遺伝的要因、神経化学的要因、環境的要因が相互に作用して発症すると考えられています。セロトニンという神経伝達物質の異常が関連しているとされています。加えて、過去のストレスやトラウマ、家庭環境も発症に影響を与える可能性があります。
強迫性障害の影響は、患者自身の生活だけでなく、周囲の人々にも及びます。強迫行為の頻度や時間が増えると、仕事や学校、家庭内での役割を果たすことが困難になることがあります。患者は自己評価が低くなることがあり、社会的孤立やうつ病など、他の精神的問題を引き起こすこともあります。

治療を受けることが重要であり、早期の介入が症状の軽減に寄与します。強迫性障害は治療可能であることが多いですが、完治には時間と努力が必要です。

診断基準(DSM-5)

強迫性障害の診断は、精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)に基づきます。以下はその主な診断基準です。

  1. 強迫観念

    • 患者は、反復的で持続的な思考、衝動、またはイメージに苦しんでいます。これらは不快であり、患者はそれを抑制しようと試みますが、制御できません。例えば、「汚れた手で物を触ると病気になる」などの恐怖心が強迫観念として現れます。
    • 患者は自分の強迫観念が過剰で無意味であることを認識していますが、依然としてその思考が続きます。
  2. 強迫行為

    • 患者は強迫観念に伴う不安を軽減するため、またはその予防を目的として、反復的な行動(手洗いや物の並べ方など)を行います。これらの行動は現実的な解決に結びつくことは少ないですが、患者はそれを行うことで不安を和らげようとします。
  3. 苦痛や障害

    • 強迫観念や強迫行為が1日を通して多くの時間を占める場合、または日常生活に大きな支障をきたしている場合、患者は顕著な苦痛を感じます。強迫行為に多くの時間を費やすことで、仕事や学校、家庭での役割を果たせなくなることがあります。
  4. 他の原因によるものではない

    • 強迫性障害は、他の精神疾患(例えば、統合失調症など)や薬物の影響によるものではないことが確認されます。

治療法

強迫性障害の治療には、主に薬物療法と心理療法が用いられます。多くの場合、両者を組み合わせることで効果が高まります。

  1. 薬物療法

    • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI):これらの薬は強迫性障害に対して効果があるとされています。代表的な薬にはフルオキセチン(プロザック)、フルボキサミン(ルボックス)、セルトラリン(ジェイゾロフト)などがあります。これらの薬は脳内のセロトニンの再取り込みを抑制し、強迫観念や強迫行為を軽減します。
    • 抗うつ薬(TCA):トリシクル抗うつ薬(TCA)も、特にクロミプラミン(アナフラニール)が有効です。これもセロトニンのバランスを調整する薬で、強迫症状の軽減に効果があります。
    • 薬物の選択は、患者の状態や副作用のリスクを考慮して行われます。薬物療法は、症状の改善には数週間かかることが多いため、根気よく続けることが必要です。
  2. 心理療法

    • 認知行動療法(CBT):強迫性障害に非常に効果的な治療法で、患者が自身の強迫観念に直面し、強迫行為を抑制する訓練を行います。特に**曝露反応妨害法(ERP)**が有名です。ERPでは、患者が強迫観念を引き起こす状況に少しずつ曝露され、その不安を軽減し、強迫行為を行わないようにします。これにより、強迫行為の頻度を減少させ、現実的な思考に至ることを目指します。
    • 認知療法:患者が強迫観念の非現実的な側面を認識し、その認知を修正していく方法です。強迫観念に対する恐怖心や不安を減らし、思考の柔軟性を高めます。
  3. その他の治療法

    • 深部脳刺激(DBS):これは重度の強迫性障害患者に対して、他の治療が効果を示さない場合に用いられることがあります。脳の特定の部位に電気的刺激を与えることで、症状の改善を図る治療法です。
    • 家族療法:強迫性障害を持つ患者を支えるために、家族が治療に関わることも有益です。患者に対する理解やサポートを深めるために、家族に適切な情報を提供することが重要です。

治療のアプローチ

治療は個々の患者に応じて調整され、薬物療法と心理療法の併用が一般的です。治療が早期に開始されると、症状の軽減が期待でき、社会的機能を改善することができます。治療には時間がかかることがあり、患者の忍耐と支援が求められます。また、再発を防ぐために長期的なフォローアップが重要です。

広場恐怖症 -2025年2月26日-

広場恐怖症は、特定の場所や状況に対する極度の恐怖を感じ、それにより日常生活に支障をきたす不安障害の一種です。広場恐怖症を持つ人は、逃げ出したり助けを求めるのが困難な状況や場所で強い恐怖や不安を感じます。この恐怖は、たとえば広い場所や人混み、公共の乗り物、または閉鎖された場所などで起こることが多く、発作的に強い不安を感じることもあります。

広場恐怖症の症状

広場恐怖症の主な症状は、特定の場所や状況に対する過剰な恐怖や不安です。この恐怖や不安は、以下のような場所や状況で引き起こされることが一般的です。

  • 公共交通機関(バス、電車、飛行機など)
  • 広い開けた場所(広場、駐車場、公園など)
  • 閉鎖された空間(映画館、エレベーター、ショッピングモールなど)
  • 人混みや行列
  • 自宅以外の場所で一人でいること

広場恐怖症の人は、これらの場所や状況に直面すると、極度の不安感や恐怖感を抱き、場合によってはパニック発作を引き起こすことがあります。パニック発作の症状には、心拍数の増加、発汗、息苦しさ、めまい、胸痛、震え、吐き気などが含まれ、死の恐怖や失神するのではないかという感覚に襲われることもあります。

広場恐怖症の患者は、恐怖を避けるために不安を引き起こす場所や状況を回避するようになります。重度の場合、家から出ることさえも避け、自宅に引きこもることが多くなります。これにより、仕事や学校、社会生活に重大な影響が生じ、日常生活が大きく制限されることになります。

広場恐怖症の原因

広場恐怖症の原因は複数の要因が関与していると考えられています。具体的には、以下のような要因が広場恐怖症の発症に影響を与える可能性があります。

  1. 遺伝的要因
    広場恐怖症や他の不安障害が家族内で見られる場合、遺伝的要因が関連している可能性が高いです。不安障害に関連する遺伝子の影響を受けやすい体質を持つ人は、広場恐怖症を発症しやすいとされています。

  2. 神経生物学的要因
    脳内の神経伝達物質、特にセロトニンやノルアドレナリンといった物質の不均衡が不安障害に関与していることが示されています。また、脳の恐怖や不安を処理する領域(扁桃体など)の過剰な反応も原因となる可能性があります。

  3. 心理的要因
    過去にトラウマティックな経験やストレスが多い出来事に遭遇した人は、広場恐怖症を発症するリスクが高まります。特に、パニック発作を経験した人は、その発作が起こった場所や状況を避けるようになり、広場恐怖症を発展させることがあります。

  4. 学習理論
    不安や恐怖を引き起こす状況を繰り返し避けることで、その状況に対する恐怖が強化されるという学習理論も広場恐怖症の一因として考えられています。避けることが一時的に不安を軽減するため、回避行動が強化され、結果として広場恐怖症が持続してしまいます。

広場恐怖症の治療法

広場恐怖症の治療は、薬物療法と心理療法の組み合わせが効果的です。治療の目的は、不安を軽減し、日常生活への支障を最小限に抑えることです。

1. 薬物療法

広場恐怖症に対しては、抗不安薬や抗うつ薬が処方されることがあります。主に使用される薬物は以下の通りです。

  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
    パロキセチンやセルトラリンなどのSSRIは、不安やパニック発作を軽減する効果があります。SSRIは副作用が少なく、広場恐怖症の治療に広く使用されています。

  • ベンゾジアゼピン系抗不安薬
    一時的な不安軽減に有効ですが、長期間使用すると依存性が生じる可能性があるため、短期間の使用が推奨されます。

  • 三環系抗うつ薬
    以前から使われている抗うつ薬で、広場恐怖症にも効果がありますが、副作用が多いため、最近ではSSRIが優先的に使用されています。

2. 認知行動療法(CBT)

広場恐怖症の治療において、最も効果的な心理療法は**認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)**です。CBTでは、不安や恐怖を引き起こす思考パターンを認識し、それを現実的な思考に置き換えることを目指します。また、曝露療法も含まれ、患者は段階的に恐怖を感じる状況に対して曝露され、少しずつその恐怖を克服していきます。

  • 曝露療法
    患者が不安を感じる場所や状況に段階的に曝露され、徐々にその場所や状況に慣れることで恐怖を克服します。例えば、公共交通機関が怖い場合、最初はバス停まで行くことから始め、次に短い距離をバスで移動し、最終的には長い距離を乗れるようになるまで訓練します。

3. 家族療法

家族が患者をサポートする方法も治療の一環です。広場恐怖症の人を理解し、適切なサポートを提供するために、家族療法が役立ちます。家族が患者の恐怖を助長することなく、適切に対応できるように教育することが大切です。

まとめ

広場恐怖症は、特定の場所や状況に対して過剰な恐怖や不安を抱く不安障害です。これにより、日常生活に大きな支障が生じることがあります。広場恐怖症は、薬物療法や認知行動療法を通じて効果的に治療できるため、早期の診断と治療が重要です。家族や専門家のサポートを得ながら、少しずつ不安を克服していくことが可能です。

春に気を付けるメンタルヘルス -2025年3月27日-

春は気温が上昇し、日照時間が長くなり、自然界が活発に動き出す季節ですが、人間の心と体にもさまざまな影響を与える時期でもあります。気持ちが前向きになりやすい一方で、メンタルヘルスにおいても注意が必要な時期です。以下に、春に気を付けるべきメンタルヘルスについて解説します。

1. 季節性うつ病 (SAD) のリスク

季節性うつ病 (Seasonal Affective Disorder, SAD) は、日照時間の変化に伴い発症することが多いです。一般的には冬に増える傾向があるものの、春先にもうつ症状を感じる人がいます。春は、気候の急激な変化や環境の変化によるストレスがかかり、心のバランスが崩れやすい時期です。日照時間の増加が逆に生理リズムに影響を与え、心身に負担を感じる人もいるでしょう。

対策としては、毎日のリズムを整えることが大切です。規則的な生活習慣や十分な睡眠、適度な運動が心の健康を支えます。また、日中に適度な日光を浴びることは、セロトニンの分泌を促し、気分の安定に役立ちます。逆に過剰なストレスを避け、リラックスできる時間を意識的に作ることも重要です。

2. 新生活のストレス

春は、卒業や入学、就職、転勤など新しい生活が始まる季節です。環境が大きく変わることで、期待感と同時に不安感やストレスも伴います。新しい環境に適応することにプレッシャーを感じたり、人間関係の構築に不安を抱いたりすることがあります。特に引っ越しや職場の異動などは、社会的な孤立感を感じやすく、メンタルヘルスに影響を及ぼすことがあります。

このような場合、自分のペースを大切にすることが重要です。新しい環境にすぐに適応しようと無理をせず、少しずつ変化に慣れることを意識しましょう。また、信頼できる人に相談することも助けになります。周囲の人々とコミュニケーションを取りながら、自分の感情を適切に表現することは、ストレスの軽減に繋がります。

3. 花粉症とメンタルヘルスの関係

春は花粉症のシーズンでもあり、花粉症に苦しむ人が増える時期です。花粉症による身体的な不快感や症状は、イライラや不安感を引き起こし、気分の落ち込みを誘発することがあります。また、くしゃみや鼻づまり、目のかゆみといった症状が続くことで、睡眠の質が低下し、心身の疲労が蓄積されることもあります。

花粉症の影響を少しでも軽減するためには、医師に相談して適切な治療を受けることが必要です。また、花粉の飛散が多い日は外出を控えたり、外出時にはマスクや眼鏡を着用するなど、予防策を講じることも有効です。十分な休息を取り、睡眠不足を防ぐことで、メンタル面の安定にもつながります。

4. 春特有の気候変動による体調不良

春は、気温の変動が大きく、朝晩の寒暖差が激しい日もあります。このような気候変動は体調に影響を与え、疲労感や倦怠感を引き起こすことがあります。また、体調不良が続くことで、心も不安定になりやすく、集中力ややる気が低下することもあります。

体調を整えるためには、適度な運動やバランスの取れた食事、十分な休養が不可欠です。特に、寒暖差のある日は、服装で調節しやすいように工夫し、体を冷やさないように注意しましょう。心身ともに健やかに過ごすためには、生活全体のリズムを整えることが大切です。

5. 自分自身を労わることの重要性

春は変化の多い季節であり、多くのことに挑戦しようとする気持ちが高まります。しかし、無理をしてしまうと、心身に負担がかかり、ストレスが溜まることがあります。この時期は特に「自分自身を労わる」ことを意識しましょう。休息を十分に取ること、無理をしないこと、自分の感情に正直になることが大切です。

また、自分にとって楽しいことやリラックスできる時間を意識的に作ることで、心のバランスを保つことができます。趣味やリフレッシュ方法を活用し、心をリセットする時間を持つように心がけましょう。

まとめ

春は、環境の変化や気候の影響でメンタルヘルスが揺らぎやすい季節です。新しい生活のプレッシャーや花粉症、気候変動など、さまざまな要因が心に影響を与える可能性があります。自分の心と体の状態をよく観察し、無理をせず、適切なケアを行うことが、春を快適に過ごすための鍵となります。

新入社員の季節 -2025年4月1日-

新入社員として4月から社会に出る際、精神面で気をつけるべきことは多岐にわたります。特に、環境が一変することや、これまで経験したことのない仕事の責任を負うことから、精神的な負担を感じることがあるでしょう。ここでは、そんな時期を乗り越えるための心構えやケアの方法について解説します。

1. 完璧を求めすぎない

新入社員は、初めての仕事に挑む際、ミスを避けたいという気持ちから完璧を目指すことが多いですが、それが精神的なプレッシャーとなることがあります。最初から完璧を目指すのではなく、まずは学ぶ姿勢を持つことが大切です。ミスは誰にでも起こりうるものですし、それを恐れるよりも、ミスから学ぶ姿勢を持つことが大事です。新人として学びの時間を与えられていることを理解し、自分自身に過度なプレッシャーをかけないようにしましょう。

2. 自分のペースを大切にする

新しい環境に慣れるのには時間がかかります。周囲が速いペースで働いているように見えることもあるかもしれませんが、自分のペースを守ることが重要です。焦るとミスが増える可能性が高まり、結果として自信を喪失することにもつながります。まずは一つひとつのタスクを丁寧にこなしていくことを意識しましょう。また、周囲の助けを借りることも大切です。質問することやアドバイスを求めることに恥ずかしさを感じる必要はありません。

3. ストレスマネジメントを心がける

新しい仕事や環境に適応する過程で、精神的なストレスを感じることは避けられません。そのため、自己管理としてストレスを発散する方法を見つけておくことが重要です。運動や趣味の時間を確保する、友人や家族とコミュニケーションを取るなど、リフレッシュできる手段を持つことで、精神的なバランスを保つことができます。定期的にリラックスできる時間を設け、自分のメンタルヘルスを管理する習慣をつけましょう。

4. 過度な自己評価を避ける

新入社員は、自分が期待されている役割を果たせていないと感じやすいものです。しかし、他人と比べて自分を過度に批判することは避けるべきです。成長には時間がかかり、すぐに結果を出すことができるわけではありません。自分に厳しすぎる評価を下すことで、自己肯定感が低下し、モチベーションを失う可能性があります。むしろ、日々の小さな成長を評価し、自分自身を認めることが大切です。

5. コミュニケーションを大切にする

職場での人間関係は、精神的な健康に大きな影響を与える要因の一つです。新しい環境でうまくコミュニケーションを取ることが、安心感を得る一助となります。自分が困っていることや、助けが必要なことがあれば、積極的に相談するようにしましょう。また、上司や同僚との関係を良好に保つために、日常的な会話を通じて信頼関係を築くことも重要です。孤立しないように心がけ、周囲との繋がりを大切にしましょう。

6. 自己成長を楽しむ視点を持つ

新入社員としての期間は、成長のチャンスでもあります。自分がこれまで知らなかったことを学び、新しいスキルを習得する過程を楽しむ姿勢が、精神的な安定に繋がります。学びの過程をポジティブに捉えることで、仕事に対するプレッシャーを軽減することができます。また、自分の成長を実感できると、自己肯定感が高まり、仕事への意欲も向上します。

まとめ

新入社員としての精神的な健康を保つためには、完璧を求めず、自分のペースを守り、ストレスマネジメントを意識することが大切です。また、周囲とのコミュニケーションを大切にし、自己成長を楽しむことで、社会人としてのスタートを良い形で切ることができます。焦らず、少しずつ慣れていくことを心がけ、自分自身の成長を大切にしてください。

部署異動、転職後のこころのケアについて -2025年4月15日-

精神科医からのアドバイス

部署異動や転職は、人生の中でも大きな変化の一つです。新しい環境、新しい人間関係、新しい業務内容。それらに順応しようとする中で、心身にさまざまな負担がかかるのはごく自然なことです。精神科医として、そんな変化を迎えたあなたに、少しでも安心して新しい一歩を踏み出していただけるよう、いくつかのアドバイスをお伝えしたいと思います。

まず最初に知っておいてほしいのは、「慣れるまでに時間がかかるのは当たり前」ということです。新しい環境では、緊張や不安を感じるのは自然な反応です。特に最初の1~3ヶ月は、「自分がこの場にふさわしいのか」「うまくやれるだろうか」と自問する場面が多いかもしれません。しかし、これは成長しようとするあなたの証でもあり、多くの方が通る道です。

ここで大切なのは、「完璧を目指さないこと」。新しい職場や部署では、まだ知らないことがあるのが普通です。すべてを完璧にこなそうとすると、かえって心が疲弊してしまいます。最初のうちは「学ぶ時期」と割り切り、自分に優しく、少しずつ前進していくことを心がけましょう。

また、周囲とのコミュニケーションも無理のない範囲で大切にしてください。誰かに話を聞いてもらうことは、不安を軽くし、安心感を得るための助けになります。信頼できる上司や同僚に小さな悩みを共有するだけでも、心がぐっと軽くなることがあります。無理に自分を良く見せようとせず、自然体のまま接することが、良好な人間関係を築く第一歩です。

睡眠・食事・運動といった基本的な生活習慣を整えることも、心の健康を保つためにはとても重要です。特に睡眠は、ストレスへの耐性を高め、心を落ち着ける大きな役割を果たします。新しい環境に慣れようと頑張るあまり、夜更かしをしたり、食事が不規則になったりしないよう、意識して生活リズムを保ちましょう。

そして何より、調子が出ないと感じたときには、「休む」ことを恐れないでください。人は誰しも、エネルギーが切れることがあります。そんな時は、立ち止まり、深呼吸をして、自分の心の声に耳を傾けてみてください。心の不調が長引く場合は、早めに専門家のサポートを受けることも選択肢の一つです。早期に対処することで、よりスムーズに回復することが可能です。

部署異動や転職は、新しい可能性への扉でもあります。焦らず、自分のペースで進んでいきましょう。あなたの頑張りは、きっと未来の自分への大きな力となります。

――心が疲れたときには、この言葉を思い出してください――
「変化に戸惑うのは、前に進もうとしている証拠です。」

あなたが健やかに、新しい環境で自分らしく過ごせることを、心から応援しています。

発達障害と統合失調症の鑑別ポイント -2025年4月25日-

今回は、発達障害(自閉スペクトラム症〈ASD〉や注意欠如・多動症〈ADHD〉)と、若くに発症する統合失調症との鑑別ポイントを解説します。



【若年性統合失調症の診断基準と特徴】

統合失調症は、現実との接点が失われる「精神病性障害」に分類され、妄想や幻覚、思考障害、感情や行動の異常などが持続的に現れる疾患です。若年性統合失調症は、10代から20代前半という発達過程で発症するため、症状の現れ方や診断には特有の難しさがあります。


DSM-5における主な診断基準(抜粋):

A. 主要症状(2つ以上。1つは①〜③のいずれか必須)

  1. 妄想

  2. 幻覚(特に幻聴が多い)

  3. まとまりのない話し方(話の飛躍、文脈のズレ)

  4. ひどくまとまりのない行動または緊張病性行動

  5. 陰性症状(意欲低下、感情表出の減退)

B. 機能低下
発症前と比べ、学業、社会活動、対人関係で明らかな支障が生じる。

C. 持続期間
症状が6か月以上持続し、そのうち1か月はAの症状が明確に存在すること。



【若年性統合失調症の臨床的特徴】

  • 発症の曖昧さ
     初期には不登校、引きこもり、学力低下など、思春期特有の変化と区別がつきにくい。

  • 幻聴の頻度
     「声が聞こえる」「悪口を言われている」といった体験を訴える。

  • 陰性症状の目立ちやすさ
     無関心、感情表現の乏しさ、会話の減少などが徐々に進行。

  • 病識の欠如
     本人は自分の症状を病気と認識していないため、治療への協力が得にくい。



【発達障害との鑑別】

若年性統合失調症と**発達障害(ASDやADHD)**の症状は一部重複するため、鑑別が非常に重要です。以下に主な違いを示します。

比較項目 若年性統合失調症 発達障害(ASD/ADHD)
発症時期 思春期以降(急性または亜急性) 幼児期から明確に見られる
幻覚・妄想 明確に存在(特に幻聴) 原則として見られない
思考の障害 話が飛躍する、脈絡がなくなる 論理性はあるが、言葉の使い方に偏りがある(ASD)
社会性の問題 病前は正常でも急激に対人関係が悪化する 幼少期から対人関係に一貫した困難
感情表現 感情の平板化、無表情 ASDでは感情の表現が独特だが一貫性あり
病識 乏しい/欠如(自分が病気と気づかない) 多くは自分の困り感にある程度自覚がある
行動の変化 急激な生活機能の低下 徐々に見られる。変化は緩やか


【鑑別診断のためのポイント】

  • 家族・学校からの情報が鍵:発症前の発達歴や行動パターンの把握が重要です。

  • 認知機能検査や精神状態評価:WISCなどの知能検査、SCTやロールシャッハなどの投影法も有効。

  • 幻覚や妄想の有無の丁寧な聴取:本人の語る「内的な声」が現実検討の障害によるものかどうかを見極めます。



若年性統合失調症と発達障害の鑑別は、特に症状が重なる「初期の段階」で難しく、見落とされやすいため、多角的な視点(発達歴・症状の質・経過・家族背景など)での評価が求められます。早期介入によって、本人の社会適応力や学業・就労の可能性を大きく支えることができるため、正確な診断が極めて重要です。

食事から考えるメンタルケア ~心を支える食の力~ -2025年5月2日-

はじめに:食と心の深い関係

私たちの体は、食べたものでできています。それと同じように、私たちの「心」も、実は食事と密接に関係しています。ストレス、不安、うつ、集中力の低下、イライラ…こうしたメンタルの不調は、生活環境や心理的な要因だけでなく、栄養状態の偏りからも起こり得るのです。

現代社会は忙しく、インスタント食品やコンビニ弁当、過剰な糖質や脂質、カフェインの摂りすぎが日常的になっています。知らず知らずのうちに、私たちは「心を不安定にする食生活」を送っているかもしれません。

本稿では、栄養学、脳科学、心理学の知見を交えながら、「食事によって心の健康を守る方法=メンタルケア」を解説します。


第1章:メンタルと食事がつながる理由

1-1. 腸と脳は「第二の脳」でつながっている

腸は「第二の脳」と呼ばれることがあります。腸内には、脳に次いで多くの神経細胞が存在しており、自律神経を通じて脳と密接に連携しています。この腸と脳を結ぶルートは「腸脳相関(gut-brain axis)」と呼ばれ、ストレスが腸に影響を与える一方、腸の状態が脳の働きや感情に影響することも分かってきました。

たとえば、腸内環境が悪化すると、炎症性物質が増加し、それが血液を通じて脳に届くことで、うつ症状や不安感を引き起こすことがあるのです。

1-2. 脳内物質は「食べ物」から作られる

「幸せホルモン」として有名なセロトニンは、脳内の神経伝達物質のひとつで、不安やうつ、怒りを抑える働きがあります。このセロトニンの原料は、実は「トリプトファン」という必須アミノ酸で、体内では合成できず、食事から摂取する必要があります。

さらに、セロトニンの合成にはビタミンB6やマグネシウムなどの補助因子が必要です。つまり、脳を健やかに保つ神経伝達物質は、栄養素によって支えられているのです。


第2章:メンタルに効く栄養素とその働き

2-1. トリプトファン:セロトニンの原料

主な食材: 大豆製品(納豆・豆腐)、乳製品、卵、バナナ、ナッツ、魚、七面鳥、牛乳
トリプトファンは、リラックスや安心感をもたらすセロトニンのもとになります。特に朝食に摂ると、日中の心の安定に役立ちます。

2-2. ビタミンB群:神経の働きを支える

主な食材: レバー、豚肉、玄米、青魚、卵、海苔、納豆
ビタミンB1は「疲労回復のビタミン」、B6は「脳内物質の合成に不可欠」、B12は「神経の伝達を正常に保つ」といったように、B群は神経系の健康維持に欠かせません。ストレスが多いほど、これらのビタミンは多く消費されます。

2-3. オメガ3脂肪酸:抗炎症と脳機能の維持

主な食材: 青魚(サバ・イワシ・サンマ)、亜麻仁油、チアシード、くるみ
オメガ3脂肪酸(EPAやDHA)は、脳の構成成分でもあり、炎症を抑える働きがあります。これが不足すると、うつ傾向が強まる可能性があるとする研究も多くあります。

2-4. 鉄・亜鉛・マグネシウム:脳機能と感情の安定に不可欠

鉄: 赤身肉、レバー、ほうれん草、ひじき
亜鉛: 牡蠣、牛肉、卵、かぼちゃの種
マグネシウム: ナッツ、海藻類、玄米、豆類

これらのミネラルは、感情の調整、脳のエネルギー代謝、神経伝達に関わるため、慢性的な不足がメンタル不調の引き金になります。


第3章:避けたい食品と食習慣

3-1. 糖質のとりすぎ

甘いお菓子や清涼飲料水を頻繁に摂ると、血糖値が急激に上下し、それに伴って気分も不安定になります。また、砂糖の過剰摂取は脳の炎症や記憶力の低下、うつ症状とも関係しているといわれています。

3-2. カフェインとアルコールの乱用

適度なカフェインには覚醒作用がありますが、摂りすぎると不安感や不眠を引き起こすことがあります。また、アルコールは一時的にストレス解消に思えるかもしれませんが、長期的には脳内物質のバランスを崩し、依存や気分障害を招く恐れがあります。

3-3. 極端なダイエットや偏食

栄養バランスを無視したダイエットや、炭水化物を極端に減らす食事法は、脳のエネルギー不足やホルモンの乱れを招きます。特に若年層や女性に多いこの傾向は、摂食障害や抑うつ傾向とも関連があるため注意が必要です。


第4章:実践!心を整える食事の工夫

4-1. 朝食は「セロトニンのスイッチ」

朝にトリプトファンを含む食事と太陽の光を浴びることで、セロトニンの分泌が促されます。例:納豆ご飯+卵焼き+味噌汁+バナナなど。

4-2. 腸内環境を整える発酵食品と食物繊維

ヨーグルト、味噌、キムチ、納豆などの発酵食品と、野菜、海藻、きのこ類の食物繊維は、腸内の善玉菌を増やし、腸脳相関を改善します。

4-3. 「まごわやさしい」のバランスを意識

これは日本の伝統的な食材を表す頭文字で、バランスの良い食事のヒントになります。

  • ま:豆類

  • ご:ごま(種子類)

  • わ:わかめ(海藻)

  • や:野菜

  • さ:魚

  • し:しいたけ(きのこ)

  • い:いも類

これらを意識することで、自然と心にも体にもやさしい食事になります。


第5章:シーン別・メンタルケアに効くレシピ例

5-1. ストレスがたまっているとき

→「さば缶とひじきの炊き込みご飯」
→「ごま入り豚しゃぶサラダ」

5-2. 不安で眠れないとき

→「豆腐とわかめの味噌汁」
→「バナナとナッツのハチミルクヨーグルト」

5-3. 朝から元気を出したいとき

→「納豆卵かけ玄米ご飯+青菜の味噌汁」
→「オートミールとバナナの焼きグラノーラ」


第6章:職場・学校・家庭での実践ポイント

  • コンビニでも「トリプトファン+ビタミンB6+炭水化物」のセットを意識(例:おにぎり+ゆで卵+味噌汁)

  • 子どもや高齢者には、食材の色や香りを楽しめる調理で食欲促進

  • 家族で「食べながら会話する」時間が、メンタルケアとしても効果的


おわりに:心を整えるには「食べる」ことから

心のケアというと、カウンセリングやストレスマネジメントなど心理的なアプローチが注目されがちですが、「毎日の食事」も心の健康の土台になります。今日からできる小さな食習慣の見直しが、未来のあなたの心をやさしく守ってくれるでしょう。

五月病の正体 -2025年5月20日-

五月病の正体

「五月病」とは正式な医学用語ではありませんが、日本においては特に新年度が始まる4月の後、5月頃に見られる精神的・身体的な不調を指す俗称です。

五月病とは、新生活や新しい環境に適応しようとした4月の緊張状態が少し緩んだ5月に、心や体にさまざまな不調が現れる現象です。典型的には、新社会人や大学新入生に多く見られますが、異動や転勤、部署変更を経験した人など、環境が大きく変化した人すべてに起こり得ます。

主な症状は、倦怠感、意欲の低下、集中力の欠如、食欲不振、不眠、気分の落ち込みなどです。うつ病に似た症状が多く、一部は「適応障害」と診断されることもあります。

背景には、以下のような要因があります:

  • 環境変化に対するストレス

  • 期待やプレッシャーに対する緊張の反動

  • 人間関係の疲労

  • 目標喪失感(「やり切った」感による空虚さ)

  • 季節の変わり目による自律神経の乱れ

5月という時期に特有の、緊張が緩むタイミングで起こるため、「心のエネルギー切れ」ともいえる状態です。

五月病への治療と対処法

五月病の多くは一時的なもので、環境に適応していく中で自然に回復しますが、症状が長引く場合や日常生活に支障がある場合には、専門的な対応が必要です。

1. 生活リズムの見直し

規則正しい生活を送ることで、自律神経が安定し、心身のバランスが取れやすくなります。特に、十分な睡眠、適度な運動、バランスの良い食事が重要です。

2. ストレスの言語化・共有

信頼できる人に気持ちを話すだけでも、心理的負担が軽くなることがあります。日記をつけたり、カウンセラーと話したりすることで、感情の整理ができます。

3. 「頑張りすぎない」意識

新しい環境で「完璧であろう」「期待に応えなければ」と無理をしすぎると、心身に負荷がかかります。「できることを少しずつ」「休むことも大切」といった柔軟な姿勢が必要です。

4. 環境調整・相談

業務量が多すぎたり、人間関係が負担になっている場合は、上司や人事部門に相談して環境調整を図ることも重要です。学生の場合は、大学の学生相談室を活用しましょう。

5. 専門機関の利用

2週間以上にわたって抑うつ気分や無気力が続く場合は、精神科や心療内科を受診することが推奨されます。適応障害やうつ病などが疑われる場合、早期対応が症状の重症化を防ぎます。


周囲の人ができる支援

五月病の人に対しては、「無理に励まさない」「評価を押しつけない」「話を否定せずに聴く」ことが大切です。共感的な態度で接することで、本人が自分のペースで回復しやすくなります。

五月病は、多くの人が経験しうる「心の調整期」ともいえます。適切な休養とサポートがあれば、自然と元気を取り戻すケースがほとんどです。焦らず、自分に優しく、無理のない回復を目指しましょう。

持続性抗精神病注射薬(LAI)-2025年5月26日-

精神疾患では、治療の継続性が症状の予後を大きく左右します。
しかし、内服治療では患者の服薬中断が少なからず起こり、再発や入院のリスクを高める要因となります。このような服薬アドヒアランスの課題に対して開発されたのが、持続性抗精神病注射薬(LAI)です。
LAIは、筋肉内に注射することで、数週間から数ヶ月にわたって一定の薬効を持続させる製剤であり、精神科治療の中で再発予防の一助として注目されています。

【エビリファイLAI】
エビリファイLAI(一般名:アリピプラゾール LAI)は、非定型抗精神病薬(第2世代抗精神病薬)であるアリピプラゾールの持続性注射製剤です。アリピプラゾールはドパミンD2受容体の部分作動薬であり、過剰なドパミン活動を抑制しつつ、不足している部分には補うという独自の作用を持っています。

エビリファイLAIは通常、月に1回(4週間ごと)に投与され、初回投与後2週間は経口アリピプラゾールを併用することで、安定した血中濃度を確保します。統合失調症の再発予防を目的に使用されるほか、双極性障害などにも適応が拡大されています。

【ゼプリオン】
プリオン(一般名:パリペリドンパルミチン酸エステル)は、リスペリドンの代謝物であるパリペリドンのLAI製剤です。パリペリドンはドパミンD2およびセロトニン5-HT2A受容体拮抗薬であり、陽性症状に対して強力な抑制効果を示します。

ゼプリオンは月1回の投与が基本であり、初回投与では1週間の間隔で2回注射する導入スケジュールをとります。加えて、3ヶ月に1回投与する「ゼプリオンTRI」も存在し、さらなる利便性向上が可能です。
主に統合失調症患者の再発予防に用いられます。

【内服薬との比較におけるメリット】

1. アドヒアランスの向上

内服薬では、服薬を忘れたり、意図的に中断することが珍しくありません。特に統合失調症患者では、病識の欠如や副作用の不快感から中断するケースが多く、再発の主な原因となります。LAI製剤では、1回の注射で数週間〜数ヶ月の効果が持続するため、服薬忘れの心配がなく、アドヒアランスが大幅に向上します。


2. 再発・入院リスクの低減

国内外の研究により、LAIは内服薬と比較して再発率や再入院率を有意に低下させることが示されています。特にゼプリオンは急性期症状に対する即効性も期待され、再発防止に強い効果があります。


3. 血中濃度の安定化

内服薬では1日の中で血中濃度が変動しやすく、副作用や効果のばらつきの原因となることがあります。一方でLAIは一定の速度で薬剤が放出されるため、血中濃度が安定し、効果と副作用の管理がしやすい点がメリットです。


4. 医療者による治療管理の強化

LAIは医療機関での注射によって投与されるため、患者が定期的に通院し、医師と接する機会が増えることも重要です。これにより、早期の体調変化や副作用の兆候を医療者が把握しやすく、より安全な治療継続が可能になります。


【内服薬との比較におけるデメリット】

1. 柔軟性の欠如

内服薬と比べて、LAIは投与後にすぐ中止できないという欠点があります。副作用が出現しても、体内に薬剤が長く残るため、調整が困難で、特に過鎮静やアカシジアが問題となることがあります。


2. 初期の経口併用が必要

エビリファイLAIは注射後すぐに効果が現れるわけではなく、最初の2週間程度は経口アリピプラゾールを併用する必要があります。患者や医療者にとって、導入時のスケジュール管理が煩雑になることがあります。


3. 注射に対する心理的抵抗

注射は身体的侵襲があり、痛みや羞恥心、不安感などが患者にとって負担となることがあります。また、精神疾患に対するスティグマの一環として、「注射される=重症」との誤解が生まれることもあります。


4. 副作用の持続

LAIでは、副作用が出た場合にその影響が長期にわたって残るという問題があります。ゼプリオンでは高プロラクチン血症による乳汁分泌、性機能障害など、アリピプラゾールではアカシジアや不安感などの副作用が持続する可能性があります。


結論

持続性抗精神病注射薬であるエビリファイLAIとゼプリオンは、それぞれ異なる作用機序を持ち、患者の状態や治療目標に応じて選択されます。内服薬と比較すると、服薬アドヒアランスの向上、再発予防、血中濃度の安定など多くの利点がある一方、柔軟性の欠如、副作用の持続、導入の煩雑さなどの課題もあります。

したがって、治療選択にあたっては、患者本人の意向や生活状況、これまでの服薬状況、副作用の出現傾向などを総合的に評価したうえで、適切な薬剤を選択することが重要です。特に統合失調症のような長期治療を要する疾患では、再発を防ぎ、社会的機能を維持するという観点から、LAI製剤は有効な選択肢となり得ます。

アルコールとの付き合い方 -2025年6月2日-

【アルコールのメリット】
生活の中で、アルコールは特別な存在です。祝いや人との交流の場では欠かせない飲み物として広く親しまれており、多くの人にとって気分転換やリラックスの手段ともなっています。しかし、アルコールにはメリットがある一方で、健康や社会に対する深刻な悪影響も無視できません。
アルコールのメリットとして、まず挙げられるのは「精神的なリラックス効果」です。少量のアルコールは中枢神経を抑制し、緊張を和らげる作用があります。これにより、人との会話が弾みやすくなったり、ストレスを一時的に和らげたりする効果が期待できます。
また、赤ワインに含まれるポリフェノールなど、一部のアルコール飲料には抗酸化作用を持つ成分が含まれていることも知られています。これらは動脈硬化の予防や、血流の改善に役立つ可能性があるとされ、適量の飲酒は心血管系の健康にプラスに働くという研究も存在します。
さらに、社会的な側面も重要です。日本では「飲みニケーション」という言葉があるように、職場の人間関係を円滑にする手段としてアルコールが使われる場面は多くあります。プライベートにおいても、友人との集まりや家族との団らんなど、楽しい時間を演出するアイテムとしてアルコールは重要な役割を果たしています。
【アルコールの有害性】
しかし、アルコールのリスクは想像以上に大きく、慎重に扱う必要があります。
まず、最大のリスクは「依存性」です。アルコールは習慣性が非常に高く、長期間にわたる飲酒はアルコール依存症に発展する恐れがあります。依存症は本人の意志だけでは制御が困難であり、健康、仕事、人間関係など人生のあらゆる側面に悪影響を及ぼします。
また、アルコールは肝臓に強い負担をかけます。過剰な飲酒は脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変、さらには肝臓がんの原因となることが知られています。その他にも、がん(食道、胃、大腸、乳がんなど)や高血圧、脳卒中、うつ病など多くの病気との関連が指摘されています。
さらに、アルコールは感情や行動の抑制を鈍らせるため、暴力や交通事故、自傷行為など、社会的なトラブルを引き起こす要因にもなります。特に若年層や未成年者、妊婦の飲酒はリスクが非常に高く、適切な教育と環境づくりが求められます。
【健全な付き合い方とは】
では、アルコールとどう付き合えばよいのでしょうか。重要なのは「適量」と「頻度」を意識することです。一般に、厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒量」は、
1日平均純アルコール量で約20g程度(ビール中瓶1本、日本酒1合、ワイン2杯ほど)とされています。
これを守ることが、健康リスクを抑える第一歩です。
また、毎日飲むのではなく「休肝日」を設けることも大切です。肝臓を定期的に休ませることで、機能の回復を促し、長期的なダメージを防ぐことができます。
さらに、自分自身の「飲む理由」にも目を向けてみましょう。ストレス解消の手段として飲酒を習慣化してしまうと、気づかぬうちに依存に近づいてしまう可能性があります。ストレスに向き合う方法は、運動や趣味、睡眠の改善など多様にあります。アルコール以外の選択肢を持っておくことが、心身の健康を保つうえで重要です。
最後に、周囲との関係性も大切です。「飲めない人」や「飲まない選択をしている人」への配慮を欠かさないこと、無理に飲ませたり、飲まされたりしない風土づくりが、健全な飲酒文化を育てる土台となります。
【おわりに】
アルコールは、人生に彩りを加えてくれる存在でもあり、扱い方を間違えると大きなリスクとなる「諸刃の剣」です。私たちはその両面をよく理解し、自分の身体や心と対話しながら、責任ある飲酒を心がけていく必要があります。アルコールと上手に付き合うことは、自分自身や大切な人を守ることにつながります。その一杯を楽しむためにも、「飲み方」を見直す意識が、今、求められているのではないでしょうか。

暑さ対策のメンタルヘルス -2025年6月23日-

夏の暑さは、私たちの身体に汗や疲れをもたらすだけでなく、心にも大きな影響を及ぼします。
近年、温暖化の影響で猛暑日が増え、熱中症の危険性が高まると同時に、メンタルヘルスの不調を訴える人も増えてきました。「なんとなく気分が晴れない」「イライラしやすい」「眠れない」といった症状が、実は暑さによるものだと気づかずに過ごしている人も多いのです。


【暑さが心に及ぼす具体的な影響】

1. 睡眠の質の低下

暑いと寝つきが悪くなり、途中で目が覚めてしまうことが多くなります。エアコンや扇風機を使用しても、室温が高すぎたり湿度が高かったりすると、深い眠りが妨げられます。睡眠の質が落ちると、自律神経のバランスが崩れ、日中の集中力低下や情緒不安定につながります。睡眠不足は、うつや不安障害のリスクを高める要因としても知られており、長期的にはメンタルヘルスに深刻な影響を及ぼします。


2. 自律神経の乱れ

高温多湿の環境では、身体は体温を一定に保つために多くのエネルギーを使います。このとき、心拍数や血圧を調節する自律神経が過剰に働くため、バランスが乱れやすくなります。自律神経の乱れは、動悸、不安感、イライラ、食欲不振など、心身両面の不調を引き起こします。特にもともとストレスに弱い人や、疲れがたまりやすい人にとっては、暑さは大きな負担となります。


3. 社会的孤立と気分の落ち込み

夏はイベントが多い一方で、外出を控える人も増える季節です。暑さにより外出を避けたり、人との交流が減ることで、孤独感を強く感じることがあります。特に一人暮らしの高齢者や、家庭内に支援の少ない人は、外界との接点が少なくなると、気分の落ち込みや無力感が強まる傾向があります。社会的孤立はうつ病の大きなリスク因子の一つです。


4. 暑さによる攻撃性の増加

暑さは人の感情にも直接的な影響を及ぼします。研究によると、気温が高くなると攻撃的な言動が増える傾向があると報告されています。イライラや怒りの感情は、他者とのトラブルを招きやすく、人間関係のストレスが増すことにもつながります。これがさらにメンタルに悪影響を及ぼすという、悪循環に陥りやすくなります。


【暑さから心を守るための対策】

では、暑さによるメンタルヘルスへの悪影響を防ぐには、どのような対策が有効なのでしょうか。以下に、すぐに実践できるいくつかのポイントを紹介します。


1. 睡眠環境を整える

室温は26~28度、湿度は50~60%程度を目安に、快適な睡眠環境を整えましょう。エアコンのタイマーや除湿機能を上手に活用し、寝具も通気性の良い素材を選ぶことで、睡眠の質を保つことができます。


2. 規則正しい生活と食事

暑さで食欲が落ちる時期こそ、ビタミンB群やミネラルを意識的に摂取し、エネルギーを維持しましょう。冷たいものの摂りすぎは胃腸に負担をかけるため注意が必要です。また、生活リズムが崩れると自律神経がさらに乱れやすくなるため、決まった時間に起き、食べ、寝るという基本を意識することが重要です。


3. 冷房と外気のバランス

冷房の効いた室内と外の気温差が大きいと、身体がストレスを感じやすくなります。冷房病の原因にもなるため、冷やしすぎないようにし、外出時には帽子や日傘、水分補給を忘れずに行いましょう。汗をかいた後は着替えをして、体温調整を助ける工夫も有効です。


4. 積極的なストレス解消法

音楽や趣味の時間、軽い運動、友人との通話など、自分に合ったストレス解消法を見つけておくこともメンタルヘルスの維持に効果的です。朝夕の涼しい時間帯に散歩をするなど、自然との接点を持つことも心に良い影響を与えます。

5. 異変を感じたら専門家に相談を

「ただの夏バテ」と思って放置せず、気分の落ち込みが続いたり、日常生活に支障が出ていると感じた場合は、早めに医療機関やカウンセラーに相談することが大切です。早期対応が、長引く不調を防ぐ鍵となります。

まとめ

暑さは私たちの体力だけでなく、心の状態にも大きな影響を与えます。「気候のストレス」は見落とされがちですが、確実に私たちの健康に作用しています。身体と心はつながっています。暑さに負けないためには、身体のケアと同時に心のケアも意識することが重要です。正しい知識とちょっとした工夫で、夏を健やかに乗り越えましょう。

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