-精神科コラム- 2024年7月~2024年12月

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適応障害とは?-2024年7月4日-

適応障害は、「環境の変化に適応できず、そのストレスによって心身に何らかの症状がおき、生活に支障がでる病気」です。

環境が大きく変化したときには誰にでも起こり得る身近なもので、日本人の一生のうち、有病率は 5~20 %とも言われています。

環境の変化はささいだったとしても、その人の性質に上手く折り合わなければ強いストレスがかかり、適応障害を発症してしまうことがあります。

それは決して、本人の弱さだけが問題であるわけではありません。例えばバリバリ仕事ができる人や何年もしっかり働いていた人であっても、どうしても合わない人間関係や業務内容があれば、そこから適応障害につながってしまうこともあります。

自分が望むように生きていける人は、世のなかでもごく僅かだと思います。職場や家庭などで様々な変化にさらされて、そこに適応していくことが求められます。

何とか適応しようと努力しても上手くいかないと、そのギャップが心理的葛藤やストレスとなります。ストレスが心身に症状をきたすようになると、適応障害として治療が必要になっていきます。

そのストレスがあまりに続いてしまうと、うつ病などにも発展していくことがあります。

うつ病とは?-2024年7月11日-

うつ病は、気分が強く落ち込み憂うつになる、やる気が出ないなどの精神的な症状のほか、眠れない、疲れやすい、体がだるいといった身体的な症状が現れることのある病気で、気分障害の一つです。
気分障害は大きく「うつ病性障害」と「双極性障害(躁うつ病)」に分けられ、いわゆる「うつ病」はうつ病性障害のなかの「大うつ病性障害」のことです。うつ病では気分が落ち込んだり、やる気がなくなったり、眠れなくなったりといったうつ状態だけがみられるため「単極性うつ病」とも呼ばれますが、一方の双極性障害はうつ状態と躁状態(軽躁状態)を繰り返す病気です。

【うつ病の症状】

「うつ病」といっても、その病態は多様です。①症状の現れ方、②重症度、③初発か再発か、④病型など、さまざまな特徴があります。

① 症状の現れ方も様々

うつ病では抑うつ気分だけがみられますが、抑うつ気分と躁症状を繰り返す双極性障害という病気もあります。治療法が異なりますので専門家による判断が必要です。

② 重症度も様々

症状による仕事や日常生活に現れる支障の程度によって、重症度「軽度」「中等度」「重度」が変わります。

軽症:仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションに生じる障害が自覚的にはあるものの、周囲の人はその変化にあまり気がつかないことも多いレベルです。

中等症:「軽症」と「重症」の間に位置します。

重症:仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションが明らかに困難なレベルです。
 

③ 初発か再発かという視点

「単一性」か「反復性」かという分類です。「反復性」の場合は、特に再発防止が重要であり、双極性障害の可能性も考えておく必要があります。

④ 特徴的な病型による分類

「メランコリー型」、「非定型」、「季節型」、「産後」などがあります。

メランコリー型:典型的なうつ病と言われることの多いタイプです。
仕事や家庭などの役割に過剰に適応しているうちに脳のエネルギーが枯渇してしまうような経過をたどるものを指しています。特徴としては、良いことがあっても一切気分が晴れない、明らかな食欲不振や体重減少、気分の落ち込みは決まって朝がいちばん悪い、早朝(通常の2時間以上前)に目が覚める、過度な罪悪感、などがあります。

季節型:「反復性」の一種で、特定の季節にうつ病を発症し季節の移り変わりとともに回復がみられます。どの季節でも起こりうるのですが、冬季うつ病がよく知られていて日照時間との関係が指摘されています。

産後:いわゆる産後うつ病と言われ、産後4週以内にうつ病を発症するものです。ホルモンの変化の影響が大きく、分娩の疲労、子育てに対する不安、授乳などによる睡眠不足など、不健康要因が重なることが影響していると考えられています。産後半年以上経過すると、改善するとも言われております。

非定型:良いことに対しては気分がよくなる、食欲は過食傾向で体重増加、過眠、ひどい倦怠感、他人からの批判に過敏、などの特徴があります。

非定型うつ病とは?-2024年7月18日-

非定型うつ病は、世間のみなさんがイメージしているうつ病とは異なる症状の「うつ病」です。

従来のうつ病というと、常に調子が悪いのが続き、周囲からも本人が落ち込んでいるのが分かります。しかし非定型うつ病では、嫌なことがあれば落ち込むけれど、良いことがあれば元気になるという気分反応性がみられます。

周囲も本人でさえも自分の性格と考えてしまうことも多い病気ですが、その落ち込みはうつ病の規準を満たすほどに深く、本人の苦痛も大きいのです。

非定型うつ病の症状としては、

  • 気分反応性
  • 社会生活に支障をきたす拒絶過敏性
  • 過眠
  • 過食
  • 鉛管様麻痺

 
この5つの症状が大きな特徴となっています。ここでは、非定型うつ病の症状と、多くみられる合併症についてお伝えしていきます。

【非定型うつ病とうつ病の違い】

非定型うつ病とは、うつ病の診断基準は満たすけれども、従来のうつ病とは異なる特徴をもつ「うつ病」のことです。まずは従来のうつ病(定型うつ病)との違いをみてみましょう。

従来のうつ病は、真面目で几帳面な方がなりやすいとされていて、周囲から見ても病気と分かるうつ病でした。症状としても、気分の落ち込みや不眠になります。意欲も思考力も低下してしまい、何をするにもうつうつとしています。さらに人との接触を避けようとします。

これに対して非定型うつ病では、憂うつな気分は確かにあるのですが、自分が楽しいことをするような時には、急に元気がでてくるのです。「うつ病で休んでいるのに、旅行は行けたり、飲み会は楽しめる・・・」といったこともあります。症状としても過眠や過食が目立ち、周囲から自分を否定されることを極度に敏感になり、周囲に攻撃的になることもあります。

このように、従来のうつ病とは様相が異なる非定型うつ病ですが、調子が悪いときにはうつ病の診断基準を満たすほどの症状があり、本人にも大きな苦痛がある病気なのです。

従来のうつ病は、十分な休養をとったうえで抗うつ剤を服用し、比較的抗うつ剤も効果が期待できました。これに対して非定型うつ病は、単純に休めば治るという病気でもなく、抗うつ剤も効きにくいのです。カウンセリングや認知療法による精神療法も必要となります。

症状としては軽症~中等症であることが多いのですが、慢性化してしまうことも珍しくありません。ときに不安障害や摂食障害が合併することもあり、性格負因も影響するためパーソナリティ障害に近い症状を呈することもあります。そういう意味では、早くから「非定型うつ病という病気」と捉えて治療をしていくことが大切です。

【非定型うつ病の診断基準】

  • 気分反応性
  • 社会生活に支障をきたす拒絶過敏性
  • 過眠
  • 過食
  • 鉛管様麻痺

 かつ、「気分反応性は必須+合計3つの症状」が認められた場合に、非定型うつ病と診断されます。

非定型うつ病は、周囲も本人でさえも性格と考えてしまうことが多いです。深い落ち込みがある方は、非定型うつ病である可能性があります。

【非定型うつ病で、起こりやすい発作】

  • 不安抑うつ発作
  • 怒り発作
不安・抑うつ発作とは、急に不安が強まり、極度に落ち込んでしまいます。「誰も自分のことを理解してくれない」「どうして私は病気になってしまったのだ」という悲観的な気持ちが強まります。そのまま涙に明け暮れることもあれば、他人への嫉妬に変わることもあります。

この不安感を解消するために、衝動的に自己破壊的な行動に出てしまうこともあります。過度な飲酒やむちゃ食い、異性に走ったり、リストカットや過量服薬などの自傷行為です。

怒り発作とは、自分が否定されたと感じたり、自分にとって嫌なこと・納得いかないことがあった時に生じる発作的な怒りです。相手に対して激高して罵声を浴びせたり、周囲のものを破壊したり、ときに暴力を振るうこともあります。落ち着くと、一転して後悔の念にかられ、自己嫌悪に陥ってしまうことが多く、発作的な怒りになります。

【非定型うつ病は合併症が多い】

非定型うつ病は、不安が根底に強い病気です。社会不安障害をはじめ、パニック障害や全般性不安障害などの不安障害を合併することが多いです。そのため、不安障害のような症状とまではいかなくても、不安になりやすい気質であることは多いです。

また非定型うつ病は、原因不明の慢性疼痛疾患である線維筋痛症や、片頭痛といった体の痛みを合併することが珍しくありません。さらに過敏性腸症候群や耳管開放症などの自律神経症状による身体の機能異常を合併することも多いです。

非定型うつ病の方の病前性格は、むしろ周囲からは良い人に思われていることが多く、専門用語で過剰適応といいます。その特徴として、症状や周囲との人間関係の破綻などから性格も変化していきます。病気が長引くとその性格が固定化してしまい、パーソナリティ障害となってしまい、境界性パーソナリティ障害や回避性パーソナリティ障害などが合併することもあります。

以上から、最近増えてきた新しいタイプの「新型うつ病」と混同されることが多いですが、あくまで非定型うつ病は症状から判断され、典型的なうつ病とは違う病態のことをいいます。

双極性障害とは?-2024年7月25日-

双極性障害は、うつ病を含む「気分障害」のひとつで、統合失調症と共に、二大精神疾患の一つとされてきた疾患です。

うつ状態だけがおこる病気を「うつ病」と言いますが、このうつ病とほとんど同じうつ状態に加え、うつ状態とは対極の躁状態もあらわれ、これらを繰り返す、慢性の病気です。

昔は「躁うつ病」と呼ばれていましたが、現在では「双極性障害」と呼んでいます。経過の中で、30:1の割合でうつ状態とも言われ、うつ状態である期間が長いため、うつ病との鑑別が困難です。

 

なお、WHOによる最新の国際疾患分類であるICD-11では、「障害」という言葉が誤解を招く可能性があるとの考えから、新たに「双極症」という日本語訳が使われる予定です。

 

入院が必要になるほどの激しい興奮を起こすものを「躁状態」といいます。家庭や仕事に重大な支障をきたし、社会的後遺症を残してしまいかねないため注意が必要です。一方、周囲から見て、明らかにいつもと違っていて、気分が高揚し、眠らなくても平気で、仕事もはかどるけれども、本人も周囲の人もさほど困らない程度の状態を、「軽躁状態」といいます。この病態により双極性障害を2種類に分けられます。

 

双極Ⅰ型障害:ほとんどの場合、うつ状態ですが、前述の躁状態があれば、うつ状態がなくても双極Ⅰ型障害と診断されます。

双極Ⅱ型障害:「軽躁状態」と「うつ状態」の両方がおこるⅡ型双極性障害といいます。

どちらのタイプの双極性障害も治療しないでいると、躁状態とうつ状態を何度も繰り返し、その間に人間関係、社会的信用、仕事や家庭といった人生の基盤が大きく損なわれてしまいます。また精神運動興奮状態を繰り返すと、脳にダメージを受け、人格水準が低下することもあります。ただし双極性障害は精神疾患の中でも治療法や対処法が比較的整っている病気で、薬でコントロールすれば、それまでと変わらない生活を送ることが充分に可能です。

 

【有病率】

うつ病の生涯有病率は、15%と言われ、ありふれた病気です。一方、双極Ⅰ型障害を発症する人はおよそ1%前後、双極Ⅰ型、Ⅱ型の両方を含めると約3%と言われています。

単純計算でも、日本に数十万人の患者さんがいると見積もられますが、日本での本格的な調査は少なく、はっきりしたことはわかっていません。

 

前述のようにうつ病、適応障害と診断されていても、実は双極性障害であった患者様も多くみられ、海外では、うつ状態で病院に来ている方のうち、20~30%の方が双極性障害であると言われています。

 

【原因・発症の要因と、治療】

双極性障害の原因はまだ完全には解明されていません。

この病気は、精神疾患の中でも、もっとも身体的な側面が強い病気と考えられており、ストレスが原因となるような「心」の病気ではありません。精神分析やカウンセリングだけで根本的な治療をすることはできず、薬物療法が必要です。そして、薬物療法と合わせて、心理・社会的な治療が必要となります。

【治療法】

①薬物療法

双極性障害の治療・予防に有効な薬は、抗精神病薬と気分安定薬です。日本で用いられている気分安定薬には、リチウム、ラモトリギン、バルプロ酸、カルバマゼピンがあります。リチウム以外は、元々抗てんかん薬として使われていたものです。しかし催奇形性といい、妊婦さんに用いると、奇形のリスクになってしまうため、妊娠可能な年齢の女性に使用する場合は、十分な説明が必要です。

近年では、非定型抗精神病薬であるクエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールも多く使われています。

気分安定薬(リチウム・バルプロ酸・ラモトリギン・カルバマゼピン)は副作用が多く、量の調節が難しい薬でもあります。具体的にはリチウム・バルプロ酸は肝機能障害、意識障害、口渇感などがあり、ラモトリギン・カルバマゼピンは皮膚症状で、時に重大な皮膚症状を起こすこともあります。そのためリチウムを飲む時は、血中濃度を測りながら使わなければいけません。特に飲み始めは血中濃度が不安定なので、短い間隔で定期的に血中濃度を調べます。

近年は、うつ状態、そう状態の時も、抗うつ薬はなるべく避け、非定型抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール)で治療します。アリピプラゾールは、月1回注射をすれば、内服の必要がない持続性筋注製剤もあります。

また抗うつ薬は、躁状態を引きおこすことがありますので、双極性障害の方は、できる限り避けた方が良いでしょう。

副作用のない薬はなく、双極性障害の治療薬は限られています。ちょっと副作用がでたからこの薬は合わない、とやめてしまうと、せっかく回復できる可能性があるのに、治るチャンスをみすみす失うことになりかねません。

薬をのまなければいけない、と思うのでなく、これまでに発見されてきた有効な薬をうまく活用しよう、と主体的に考えて、自分の病気のコントロールのために、どのように副作用と折り合いをつけながら治療していこうか、という姿勢で臨むと良いでしょう。

②心理療法

双極性障害は、単なる心の悩みではなく、カウンセリングだけで治ることはありません。しかし、病気をしっかり理解し、その病気に対する心の反応に目を配りつつ、治療がうまくいくように援助していく、「心理教育」は必須です。心理教育では、病気の性質や薬の作用と副作用を理解すると共に、再発の最初の徴候は何かを、自分と家族が把握し、共有することを目指します。

再発した時に最初にでる症状(初期徴候)は何なのかを話あって確認し、本人と家族で共有することが大事なのです。また再発のきっかけになりやすいストレスを事前に予測し、それに対する対処法などを学ぶのも良いでしょう。

 

③非薬物療法

双極性障害の治療においては、規則正しい生活を送ることも大切です。徹夜を避け、朝はしっかり日の光を浴び、散歩などの軽い運動するなどして、なるべく一定のスケジュールで生活し、気分が不安定な時は過度の社会的刺激を避けるなど、生活を工夫することによって、病気が安定化します。

【患者様へ】

うつ病の治療では、そのうつ状態を治すことが目標になり、多くの場合2年くらいで治療を終了することができます。一方、双極性障害の場合は、躁状態・うつ状態は多くの場合再発を繰り返すため、これを予防することが治療の目標になります。もし、躁状態、うつ状態が治ったからと言って、治療をやめてしまうと、再発を繰り返し、その結果、社会的なダメージが大きくなってしまいます。

双極性障害は、再発予防療法を続けることで、問題なく社会生活を送ることができる病気なのですが、躁状態でもうつ状態でもない、症状がすっかりおさまっている期間も、何も困っていないのに、長期にわたって薬を飲み続けるというのは、並大抵のことではありません。また自分に限ってそんな病気のはずはない、と否認したり、ショックを受けて、落ち込んだりした人もいることでしょう。

患者様自身が病気を受け入れ、主体的に再発予防に取り組み始めることができるかが、その後の人生を大きく変えることになります。双極性障害をうまくコントロールすれば、次第に、病気のことをあまり考えなくても、毎日の生活が楽しく送れるようになるようになると思います。

統合失調症とは?- 2024年8月1日-

統合失調症は、考えや気持ちがまとまらなくなる状態が続く精神疾患で、その原因は脳の機能にあると考えられています。
約100 人に1 人がかかるといわれており、決して特殊な病気ではありません。
思春期から40歳くらいまでに発病しやすい病気です。
薬や精神科リハビリテーションなどの治療によって回復することができます。

【どんな症状】

-陽性症状-

妄想
「テレビで自分のことが話題になっている」「ずっと監視されている」など、実際にはないことを強く確信する。

幻覚
周りに誰もいないのに命令する声や悪口が聞こえたり(幻聴)、ないはずのものが見えたり(幻視)して、それを現実的な感覚として知覚する。

思考障害
思考が混乱し、考え方に一貫性がなくなる。会話に脈絡がなくなり、何を話しているのかわからなくなることもある。

-陰性症状-

感情の平板化(感情鈍麻)
喜怒哀楽の表現が乏しくなり、他者の感情表現に共感することも少なくなる。

思考の貧困
会話で比喩などの抽象的な言い回しが使えなかったり、理解できなかったりする。

意欲の欠如
自発的に何かを行おうとする意欲がなくなってしまう。また、いったん始めた行動を続けるのが難しくなる。

自閉(社会的引きこもり)
自分の世界に閉じこもり、他者とのコミュニケーションをとらなくなる。

-認知機能障害-
記憶力の低下
物事を覚えるのに時間がかかるようになる。

注意・集中力の低下
目の前の仕事や勉強に集中したり、考えをまとめたりすることができなくなる。

判断力の低下
物事に優先順位をつけてやるべきことを判断したり、計画を立てたりすることができなくなる。

【薬物療法/精神科リハビリテーションについて】
統合失調症の代表的な治療として、薬による治療と精神科リハビリテーションがあります。
急性期には薬による治療が基本になりますが、なるべく早い時期から薬と精神科リハビリテーションを組み合わせた治療を行うことが効果的です。

【困ったときの相談窓口】
困ったときの相談は、かかりつけの医療機関のほかに、最寄りの保健所、精神保健福祉センターでも受け付けています。 ご本人だけでなく、ご家族の方も直接、窓口で相談できるほか、電話での相談も受け付けています。

-こころの健康相談統一ダイヤル-
電話をかけた所在地の精神保健福祉センターをはじめとする公的な相談機関につながります。ただし、電話相談の受付時間や曜日は、相談先によって異なります。
Tel0570-064-556

-公益社団法人全国精神保健福祉会連合会 みんなねっと相談室-
病気のことや経済的な悩み、生活上の問題、障害年金等の福祉制度に関する質問などを含め、同じ家族の立場の家族相談員が本音の相談に応じます。
Tel03-5941-6346
毎週水曜日 10:00-12:00、13:00-15:00

統合失調症の治療とは?-2024年8月8日-

【抗精神病薬】

統合失調症の治療の中心となる薬を「抗精神病薬」といい、症状の改善や再発の予防に大きな力を発揮します。抗精神病薬は、主として脳内で過剰に活動しているドーパミン神経の活動を抑えることで症状を改善すると考えられています。抗精神病薬は、定型抗精神病薬(従来型)と非定型抗精神病薬(新規)とに分けられます。定型抗精神病薬は陽性症状に効果があり、非定型抗精神病薬は陽性症状に加えて陰性症状や認知機能障害に対する効果も期待できます。

【その他の薬】
抗精神病薬のほかに症状に合わせて、不安や抑うつを和らげる薬、睡眠薬などが使われます。また、抗精神病薬の副作用を抑えるための薬が処方される場合もあります。
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副作用かな? と思ったら-
時として体が硬くなったように感じたり、手足がふるえたり、落ち着きがなくなる人も中にはいます。また、のどが渇いたり、便秘になったりする人もいます。
これらは薬の副作用の場合がありますので、少しでも「おかしいな」と感じたら主治医に相談しましょう。薬の量を調整したり、種類や組み合わせを変えることで、副作用を抑えることが可能です。

-服薬をやめてもいいですか?-

薬を飲むことをやめると、再び症状が出てくることがあります。また、再発を繰り返すと症状が強くなり、治りにくくなります。薬には再発を予防する作用がありますから、薬を続けることはとても重要です。
症状が良くなったからといって、勝手に自分で薬をやめてはいけません。毎日薬を飲むのが面倒であれば、1 回の投与で2~4週間効果が続く持続性注射剤を選ぶこともできます。薬を飲むことをやめる、薬の量を減らすなどについては、主治医とよく相談して決めましょう。

【精神科リハビリテーション】
精神科リハビリテーションは、病気の症状で生じる「生活のしづらさ」を改善し、スムーズに安定した生活を送れるようにすることを目的に行います。具体的には、デイケア、作業療法、SST(生活技能訓練)、心理教育などのプログラムがあり、医療機関や地域の精神保健福祉センター、自立訓練事業所などで実施されています。
精神科リハビリテーションは医師や看護師のほか、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士などの専門職が連携して行います。自分に合った無理のないリハビリテーション・スケジュールについて、これらの専門スタッフに相談してみましょう。

-デイケア-
医療機関で実施される外来治療の一つで、SST や心理教育、レクリエーション、軽作業、料理などのさまざまな活動を通じて対人関係能力を改善し、社会にうまく参加できるように準備するプログラムです。「症状は良くなったけれど社会に出る自信がない」「友達が欲しい」などの悩みがある場合は、デイケアに参加するとよいでしょう。定期的に通うことで規則正しい生活リズムも身につきます。保健所や精神保健福祉センターでも実施されています。

-作業療法-
作業療法士の指導のもと、手工芸、パソコン、体操、園芸、音楽、書道、スポーツなどの軽作業を通じて、楽しみや達成感、充実感といった感情の回復を図ります。これにより、日常生活や社会参加に必要な能力の回復・維持が期待できます。

-心理教育-
病気の症状や原因、治療法などについて正しい知識を学ぶことで、病気に対する理解を深め、病気との付き合い方や前向きに治療に取り組む姿勢を身につけることができます。
家族を対象にした心理教育は「家族教室」と呼ばれ、病気に対する理解と本人への接し方やサポート方法などを学びます。

【再発しやすい病気です】

統合失調症は再発しやすい病気です。いったん症状が落ち着いても長期にわたって治療を続ける必要があります。 治療を中断して再発を繰り返すと、次のようなリスクがあります。

-再発を繰り返すと生じるリスク-

  • 精神機能や社会的な機能が低下して、今までできていたことができなくなる
  • 薬が効きにくくなって回復に時間がかかるようになる
  • 多くの方が再入院になる


【再発のサインを見逃さない】
再発の兆候(サイン)は人それぞれ違いますが、患者さん一人に限っていえば、再発するときはいつも同じパターンで始まることが多いといわれています。家族が気づきやすい再発のサインには次のようなものがあります。

-家族がわかる再発のサイン(例)-

  • 眠れない日が続くようになる
  • イライラしている
  • 食欲が落ちている
  • 焦りや不安の訴えが多くなる
  • 発病時の体験を昨日のことのように語るようになる
  • そわそわして、落ち着きがなくなる
  • うつ症状になり、ぼーっと考え込んだりする
  • 被害的で、疑い深くなる
  • 行動的になり、異性にアタックしたり、仕事にトライする
  • 作業所やデイケアを突然やめて、仕事探しに出る

 

病気の症状が安定してきたら、治療を続けながら働くことも可能です。病気の人を対象にした「障害者枠」のほか、「一般就労」で働いている人たちもたくさんいらっしゃいます。

仕事を探している方への求職情報の提供だけでなく、仕事につく自信がない方や仕事を続けられるか不安な方を対象として職業準備訓練や職場実習、就職後の定着支援をおこなう施設もあります。また、落ち着いて仕事を続けていく上で必要な生活面での支援もしてくれます。

まずは主治医に希望を伝えて、これらの施設の専門スタッフに相談してみましょう。

気分変調症とは?-2024年8月15日-

1.気分変調症について

気分変調症はうつ病と似ている疾患で、気分が異常に低下してしまう疾患の1つです。

気分変調症の症状は、「軽度のうつ症状が長期間続く」というのが特徴です。

軽度というのは、「日常生活にギリギリ支障を来たさないくらい」と考えると分かりやすいと思います。気分が晴れない日が続いていてそれなりに苦しいんだけど、仕事に行ったり身の回りの事をしたりとかは何とか出来ている。

軽度とは、このような状態です。

また、「長期間」というのは数年単位の期間になります。診断基準上は「2年以上(未成年は1年以上)」となっています。しかも気分変調症で生じる症状は、基本的にはうつ病で生じる症状と共通しています。

具体的には、

  • 抑うつ気分(気分の落ち込み)
  • 食欲の異常(多くは食欲低下)
  • 睡眠の異常(多くは不眠)
  • 疲労感、気力の低下
  • 自尊心(自分を大切だと思える気持ち)の低下
  • 集中力の低下
  • 絶望感

などのうつ症状が認められます。

それぞれの症状は決して重篤ではないものの、1日のほとんどの時間に認められ、また数年単位でこれらの症状が持続しているのが気分変調症です。

しばしば気分変調症は、症状が軽度である事から「大したことない疾患」と誤解されてしまう事がありますが、そんな事はありません。

症状自体が軽度であったとしても、人生に大きな不利益を与える可能性の高い疾患である事が分かると思います。気分変調症の症状は確かに軽いのですが、だからといって軽視して良い疾患ではないのです。

2.気分変調症とうつ病の症状の違い

まず、気分変調症のそれぞれの症状の程度はうつ病と比べると軽く、生活に大きな支障をきたすほどにはならないのが通常です。しかしうつ病であっても「軽症うつ病」は日常生活に大きな支障を来たさない程度の重症度ですので、症状の程度だけではうつ病と気分変調症を見分ける事はできません。

「軽度」という以外に両者を見分けるポイントとしては、うつ病は気分が異常に落ち込み、正常に自分の状況を判断できなくなってしまうため「希死念慮」がしばしば認められます。希死念慮というのは「自分は生きている価値がない」「自分が存在している事が世の中に迷惑だ」と異常に状況を認知してしまう事で生じる「死ななくてはいけない」という思いです。

気分変調症も、同じように気分の異常な落ち込みはあるものの、生活は何とか保てるため、状況を判断する能力はそこまで低下していません。そのため、「死んでしまいたいな」「消えてしまいたいな」という自殺願望が認められる事はありますが、異常な状況認知に基づく「希死念慮」が認められることはあまりありません。

両者を見分けるにあたってもう1つのポイントは、「長期間続いている事」とそれによって「いつから発症したのかが分かりにくい」という点があります。

うつ病も長期間続く事はありますが、気分変調症は「いつからこのような落ち込みがあるのか分からない」と患者さん自身が言うほど経過は長く、発症時期を特定する事が困難です。さらに本人は今の精神状態を異常なものだとは考えていないため、そもそも治療をしようと病院に来ない事も珍しくありません。

3.気分変調症の各症状について

気分変調症で生じやすい症状について、詳しく説明します。

抑うつ気分
気分変調症の抑うつ気分は、その程度はひどくはないものの、1日中続きます。また何年も続く事が特徴です。
うつ病では「日内変動」といって朝にもっとも悪く、夕方になってくると少しずつ改善してくるという特徴がありますが、気分変調症は日内変動はありません。1日を通して持続的に落ち込みます。

食欲の異常
基本的には気分が落ちるため、食欲も低下するのが一般的です。うつ病であれば食事が全く取れずに体重がどんどんと落ちてしまう事もありますが、気分変調症の場合は食欲は低下するものの、生活に必要な体力は何とか維持できる程度にとどまります。

疲労感、気力の低下
気分変調症では精神的なエネルギーが低下しているため、「何もやる気になれない」「おっくうでなかなか腰が上がらない」「常に疲れている」という症状が生じます。

全く動けないという程度にはならず、生活に必要な最低限の行動は出来るものの、それ以上の行動は出来ないという程度が多く、

  • ノルマの最低限の仕事は出来るけど、それ以上は出来ない
  • 最低限の家事しかやる事が出来ない

という状態が続きます。

自尊心の低下
自分に対する評価も低下します。本来、私たち人間は皆「自尊心」を持っています。これは自分を大切だと思える気持ちです。この自尊心があるからこそ、私たちは人生に希望を持って生きていく事が出来ているのです。
しかし精神エネルギーが低下し、気分が落ち込んでいる気分変調症では、何事もネガティブな方向に考えやすくなるため自尊心・自己評価が低下しやすい傾向があります。

 

集中力の低下
物事に集中する事は、精神力が必要です。精神エネルギーが低下してしまっている気分変調症では、気力が低下しているため、物事に集中する事が困難になります。そのため仕事中なのにボーッとしてしまったり、ミスが多くなってしまったリという事が目立ってくるようになります。

絶望感
気分変調症では、抑うつ気分が長期間続く事に加えて自尊心の低下も生じるため、自分の将来に対して絶望感を感じるようになります。
この絶望感は、「死んでしまいたい」「この世から消えてしまいたい」といった自殺願望を引き起こす事もあります。

くすりの飲み方Q&A- 2024年8月25日-

Q:薬の袋に食前、食後など書いてありますが、どれくらいのタイミングで服用すればよいですか?

A:以下のように服用してください。

・ 食前:食事の30分くらい前に服用。
・ 食直前:食事をする直前に服用。
・ 食後:食事の後の30分くらいまでに服用。
・ 食直後:食事を終えた直後に服用。
・ 食間:前の食事から約2時間程度過ぎてから服用。
・ 起床時:朝、起きてすぐに服用。
・ 眠前:寝る直前に服用。 飲んだらすぐに床に就くようにしましょう。
・ 頓服:症状が出たときに必要に応じて服用。

 

Q:服用時間に注意しなければならない薬はありますか?

A:当センターでは以下の薬に特に注意してください。

シクレスト(抗精神病薬)
必ず舌の下に薬をおいてください。すぐに溶けます。

胃の中に入ると、肝臓の初回通過効果でシクレストの効果が2%程度まで落ちてしまうと言われております。

クアゼパム(睡眠薬)
胃の中に食物がある状態で服用すると、薬が効き過ぎてしまう事があります。服用後は夜食を摂らないでください。

頓服薬を服用してもすぐに効果が出なかったら、時間をあけずにもう一回服用してもいいですか?

A:すぐに服用せず、2時間程度を開けるようにしてください。

一般的な薬は服用してすぐに効果が出るわけではなく、効果が出てくるまでに少し時間がかかります。ですから、服用後、少し様子を見るようにしてください。

うつ病とうつ状態の違いについて- 2024年8月29日-

うつ病、抑うつ状態、うつ状態、うつ、抑うつなど、うつ病に関する言葉はたくさん存在しています。こういった言葉に明確な基準はありませんが、ある程度気分の落ち込みや憂鬱な気分が続いた状態を「抑うつ状態」と表現します。つまり、抑うつ状態やうつ状態は、気分の落ち込みが一時的な場合にあてはまります。

一方でうつ病は、抑うつ状態よりも症状が重い場合や期間が長い場合にあてはまります。抑うつ状態が長く続き、生活に支障が出て苦痛が強い場合は、うつ病と診断が下ります。 ただし、先述したようにうつ病とうつ状態の言葉に明確な基準はありません。

参考:日本医師会|うつ病・抑うつ状態と、うつの違いってなぁに?

https://www.med.or.jp/dl-med/people/plaza/454.pdf


【うつ病=うつ状態ではありません】

うつ状態に陥ると、大抵の人は真っ先にうつ病を疑うが、うつ状態=うつ病ではない。長期間に及ぶうつ状態をきたす疾患というのは、うつ病以外にも適応障害、パーソナリティ障害、発達障害、統合失調症などがあります。

適応障害は、軽度のうつ状態で「心の風邪」とも言われます。過度のストレスによるもので、薬の力を借りずともストレスの原因が改善されたり、時間がたったりすることで自然に治っていくケースも多いです。統合失調症は、外に出て騒ぐなどの行動がある『陽性症状』と、ひきこもりがちになる『陰性症状』があります。うつ病でも自分の行為や内面的な心の動きに罪悪感をもち、自分自身を責める『罪業妄想』などの妄想を伴うことがあります。統合失調症では、他人の些細な言動や行動に特別な意味づけをし、勝手に自分に関連付ける『関係妄想』など、タイプの異なる妄想がみられます。

 

【うつかな・・・と思ったら・・・】

身近な人に現状を伝えて相談する

「病院に行くことに抵抗がある」「あまり大げさにしたくない」というときは、まず身近な人に相談することからはじめましょう。軽度の抑うつ状態であれば、相談することで心が晴れたり対策法が見えてきたりして問題が解決する可能性があります。 とくに、真面目で頑張りすぎる性格の人はうつ病になりやすいと言われています。「これくらいでうつ病なわけがない」と思いこんでしまう傾向にあるので、周囲に相談して客観的な判断をしてもらうことが大切です。

「自己判断せず、必ず医師に相談して的確な判断を下してもらいましょう。」

うつ病の正確な診断をするためには、一人ひとりの様子やほかに悩んでいる症状などを複合的に見て判断する必要があるためです。

自己判断で「これくらいの抑うつ状態は病気じゃない」と思ってしまったり、「うつ病だから会社を辞めよう」と行動したりしてしまえば、症状の悪化や大きな後悔につながってしまう恐れがあります。医師に相談することで客観的な判断が可能となり、薬物療法や休職、これからの過ごし方など適切な治療の方向性が見えてきます。

精神科や心療内科に通院することに抵抗がある場合は、かかりつけの内科などで相談しても構いません。症状の早期改善には医師の診断が欠かせないので、できるだけ早めに診察を受けるようにしましょう。

統合失調感情障害とは?- 2024年9月9日-

統合失調感情障害は聞いたことがないという方がほとんどではないでしょうか?厳密には統合失調症とは、違います。

統合失調感情障害は、統合失調症と気分障害(うつ病または双極性障害)の2つの症状が現れる疾患です。そして、それらの症状は同時期に起こります。
感情障害でもなく、統合失調症でもないため、見分けがつきにくいため、診断に至るまで時間を要します。生涯罹患率は統合失調症よりも低く約0.3%で、発症するのは男性よりも女性の方が多いと言われています。

【統合失調感情障害の特徴】
統合失調感情障害の症状は日常の生活に影響を与え、発症するまではできていたことでも行うのが難しくなるのです。そのため統合失調感情障害を他の疾病と区別し適切に診断するために、長期的に症状を観察し進行を評価することが必要です。
人格水準の低下は目立たないため、予後は統合失調症より良好であることも特徴のひとつに挙げられるでしょう。

【統合失調感情障害の症状】
統合失調感情障害では統合失調症と気分障害の症状が現れます。ふたつの疾病の特徴が見られることが判断基準になっており、それぞれの症状の時期が重なっていなくてはなりません。

【統合失調感情障害の原因】
遺伝子による原因が報告されておりますが、解明されていないため、はっきりとした理由は特定されていません。

【統合失調感情障害の治療方法】
統合失調感情障害における治療法は、統合失調症と似ています。
薬物療法では統合失調症や抑うつ気分の症状を緩和するために、抗精神病薬や抗うつ剤が処方されます。躁病症状が見られる場合には、気分の高まりを抑えるリチウムやバルプロ酸、カルバマゼピンなどの気分安定剤が使われるでしょう。
治療には薬物療法を用いるのが一般的ですが、症状によって精神療法(心理療法)やリハビリテーションを併用することがあります。

【まとめ】
統合失調感情障害は統合失調症と気分障害の症状が組み合わさった疾病で、あまり馴染みのない方が多いかもしれません。けれど、日常生活を送ることが難しくなる、異常な行動を取ってしまうなど、社会から孤立してしまう要素を含んでいるため、早期に発見することが求められます。

統合失調症や気分障害と区別するために、診断は慎重に行われるため時間がかかりますが、適切な治療を受ければうまく対処可能な疾病です。症状が安定してきたら、周囲の力も借りながら過ごすことで再燃も防げると言われています。ぜひ自分自身や身近な人のためにも、特徴や症状を知っておくといいでしょう。

不眠症とは?- 2024年9月24日-

不眠症とは、良質な夜間の睡眠を十分に取ることができず、仕事や学業に支障をきたすなど日中の機能障害が生じた状態を指します。日中の機能に支障をきたすことが診断のポイントになります。

  • 不眠症状には寝付きが悪い(入眠困難)
  • 夜間に目覚めてその後眠れない(睡眠維持困難)
  • 朝早くに目覚めてしまう(早朝覚醒)

の3タイプがあります。

不眠症を引き起こす原因はさまざまであり、心理的なストレス、飲酒、薬物、身体の不調など多くのものがあります。不眠に関しての問題を抱える人の割合は高く、成人の30%以上が一過性の不眠症状を経験し、10%ほどが不眠症に罹患していると報告されています。すなわち、現在の日本においては誰であっても不眠症に陥る可能性があるといえます。

【原因】
不眠症の原因としては、不適切な生活習慣、心理的なストレス、アルコールなどの嗜好品や薬物、心身の病気などが挙げられます。
1日24時間の枠組みの中で決まった時間に寝起きし規則正しい生活を送るには、日中の活動時間に光を浴びて体内時計をリセットすることが必要不可欠です。しかし、深夜営業・終夜営業のコンビニの存在、就寝前のスマートフォンの利用、24時間稼働の工場勤務や夜勤労働など、不適切なタイミングで光を浴びることでヒトの体内時計に狂いが生じます。
また、家族や親しい友人の死去、仕事の過度なストレスなどの心理的なストレスも不眠症の原因になります。また寝付きをよくするためにアルコールを飲む方もいますが、むしろアルコールは夜間の睡眠の質を悪化させるため、結果として不眠症を引き起こす要因になります。

【症状】
不眠症では、夜間の不眠症状が基盤にあります。不眠症状のタイプとしては入眠困難、睡眠維持困難、早朝困難があります。

①入眠困難
なかなか寝付けないことです。寝るまでに30分から1時間かかる場合がこれにあたります。不眠症の中でももっとも訴えの多いものです。

②睡眠維持困難
いったん眠りについても何度も目が覚めてしまう、目が覚めた後に眠れない場合がこれにあたります。年齢を重ねるとともに眠りが浅くなり目が覚めやすくなります。お年寄りに多くみられるタイプです。

③早朝覚醒
朝早く目が覚めてしまい、そのまま眠れない場合です。年齢を重ねるとともに体内時計のリズムが前にずれやすく、この症状が出やすくなります。

不眠症では、こうした不眠症状により日中の機能障害が生じることが特徴です。具体的には、仕事や学業に支障をきたすなどのパフォーマンスの低下、集中力や記憶力の低下、やる気が出ない、情緒の不安定さ(気分がすぐれない・イライラしやすいなど)がみられます。

【不眠症の検査】
不眠症の診断においては、どのようなタイプの不眠症状があるのか、またそれによる日中の機能障害があるのかを判断することが重要です。さらに睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など、ほかの睡眠障害を除外できる場合に不眠症と診断することになります。

基本的には、不眠症状や日中の機能障害は問診による主観的な評価をもとに判断しますが、夜間睡眠の状態をより詳細に評価するために”睡眠ポリグラフ検査”という検査が行われることがあります。また、腕時計型の加速度センサーを手首に取り付け、連続的に活動量を計測する“アクチグラフィ”という検査が行われることもあります。

不眠症の治療- 2024年10月9日-

不眠症の治療においては、不眠症状の原因に対してのアプローチ、薬物療法、認知行動療法が検討されます。

良質な睡眠を保つことができるような睡眠衛生指導が行われます。たとえば、毎日なるべく決まった時刻に寝起きする、日中に光を浴びる、寝る前のカフェインやブルーライトを避けるなどが挙げられます。

こうしたアプローチに加えて、薬物療法を用いることもあります。薬物療法は安全性の高いオレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬が優先されますが、場合によってはベンゾジアゼピン受容体作動薬なども使われます。

薬物は漫然と継続するのではなく、定期的に症状を評価し、可能であれば減薬・休薬も試みます。認知行動療法は単独でも薬物療法との併用でも行われることがあります。適切なスケジュールで睡眠をとるトレーニングとリラクゼーション法を組み合わせる方法が一般的です。

【薬物療法】

① オレキシン受容体拮抗薬(デエビゴ・ベルソムラ)

作用機序:脳内で覚醒を維持する神経伝達物質として、オレキシンがあります。薬の有効成分が、オレキシン受容体1型、2型に競合して阻害することで、覚醒状態を抑えて、睡眠を促す作用があります。不眠症の治療として、処方されています。

(ベンゾジアゼピン系睡眠薬との違い)

従来から使われているベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、GABA受容体に作用して、睡眠と鎮静の効果が出ます。
一方、オレキシン受容体拮抗薬では、作用機序が覚醒維持のシステムを抑えるという点で異なることから、より自然に近い睡眠となります。
長期に服用すると依存性が問題になるベンゾジアゼピンに対して、オレキシン受容体拮抗薬は、耐性と依存性の心配がない利点があります。

ベルソムラ(スボレキサント製剤)
通常、就寝直前に服用する
食事と同時又は食直後の服用は避ける(入眠効果の発現が遅れることなどが考えられるため注意が必要)

デエビゴ( レンボレキサント製剤)
通常、就寝直前に服用する
食事と同時又は食直後の服用は避ける(入眠効果の発現が遅れることなどが考えられるため注意が必要)

②メラトニン受容体作動薬(ロゼレム)
ロゼレムは、メラトニン受容体MT1とMT2に作用して、以下のメカニズムで不眠症における入眠困難の改善をもたらします。

メラトニン受容体MT1:神経活動が抑制される、体温が低下する(催眠効果)
メラトニン受容体MT2:体内時計のリズムが調整される(概日リズム調整効果)

上記の作用の組み合わせによって、「覚醒状態」の体内時計のリズムから「睡眠状態」の相へ切り替わるので、自然にとても近い睡眠状態をもたらします。

ロゼレム(ラメルテオン)
通常、成人にはラメルテオンとして1回8mgを就寝前に経口投与する

③ベンゾジアゼピン系睡眠薬

睡眠薬のなかでも、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は多くの種類が発売されています。
効果の強弱・作用時間の長さもさまざまなタイプがあり、患者さんの状態に合わせて選ぶことができるのがメリットの1つと言えます。
そのため、不眠症のタイプに合わせ、睡眠薬の作用時間を変えていきます。

  • 入眠障害には、超短時間型~短時間型:サイレースレンドルミンエバミール
  • 中途覚醒には、短時間型~中間型:ベンザリンユーロジン
  • 早朝覚醒には、中間型~長時間型:ドラール

などを使用するのが一般的です。

(ベンゾジアゼピン系睡眠薬のメリットとデメリット)
メリット

  • 種類が豊富で幅広い不眠に合わせて処方できる
  • 効果がしっかりとし、即効性も期待できる
  • 不安や筋肉の緊張をやわらげる作用もある

しかし、その一方で、(デメリット)
  • ふらつき、眠気の持ち越し、健忘などの副作用が出ることがある
  • 睡眠のメリハリを減らし浅い睡眠を増やしてしま
  • 長期連用で効きが悪くなり、依存に注意が必要

そのため、特徴を知って上手に使うことが大切なお薬です。

最後に睡眠障害の原因はさまざまですので、睡眠薬は助けに使いながら、原因に合わせた対応をしていくことが大切です。

職業性うつ -2024年10月21日-

仕事でのストレスを機に、うつ病になってしまう方はたくさんいます。
仕事のストレスと一言で言っても、さまざまなタイプがあります。自分のストレスをしっかりと見えるようにすると、それだけで良くなっていく方もいます。そのため、最初は原因を考えていきます。

【仕事のストレスによる影響】
ストレスは「変化の大きさ」が最も影響を与えます。

ストレスの影響力=ストレス強度×持続時間×頻度×変化


これらの4つの要素のうち、もっとも影響が大きいものは、「変化」です。人は変化にとても弱いです。昇進や昇給、希望する部署への異動などプラス要素の変化も、時にストレスになります。良くも悪くも、変化することは全て「ストレス」なのです。

人は、ストレスを受けると三段階の反応をとります。

第一段階は警告反応期です。ストレスを受けると、そのショックから一時的に身体の機能が低下しますが、抗ストレスホルモンが分泌され、身体の機能を活発化させることで身を守ろうとします。

第二弾階の抵抗期です。長引くストレスに身体が抵抗し、普段よりも抵抗力が強くなっている状態です。

第三段階は疲憊期(ひはいき)です。長期にわたってストレスを受け続けた結果、身体が疲労困憊してしまった状態です。ここまでくると抵抗力が下がり、睡眠や食事などの生活リズムも乱れ、身体機能が低下していきます。

このようにして、うつ病などにつながっていきます。


【4つのポイント】

量的負担・質的負担・社外の人間関係・社内の人間関係の4つのポイントで考えていきましょう。
自分がどのようなことにストレスを感じているのか、はっきりさせるだけでも意味があります。全体像がみえると、それだけで楽になります。自分のストレスを、自分で把握することにも意味があります。

【仕事のストレス(量的負担)】
仕事の量が増えてくると、ストレスになります。ですが、純粋に仕事量が多い=ストレスが多いというわけではありません。

まず、客観的な業務量は、純粋にトータルの業務量の多さです。同僚などと比較すれば、その業務量が多いかどうかは見えてくるかと思います。

また業務量の多さは純粋に量だけでなく、主観的にも変わってきます。楽しいと感じていれば、業務量は少なく感じます。単調な作業は、客観的な業務量以上に負担が大きいです。また、自分のキャパが小さい方と大きい方では、同じ業務量でもストレスへのとらえ方がかわります。

さらには、職場内での業務量の比較も影響します。人はどうしても比較をしてしまいます。同じ境遇の中で、自分より辛い人をみれば、「自分はマシだ」と思えます。反対に、自分より周囲が楽をしていれば、「自分の待遇がよくない」と、よりストレスが増します。

そして、ストレスに影響のもっとも多いのが変化です。納期の都合や季節性に業務が変化すると、オンとオフの差が激しくなります。その変化についていかなければいけません。

休みをとることもストレスの軽減になります。休めるかどうかよりも重要なのが、休みを取りやすい環境かどうかです。休みにくい中で無理やり休むと、しっかり休まりませんよね。

【仕事のストレス(質的負担)】
仕事の中身もストレスには重要です。仕事の質的負担にはどのようなものがあるでしょうか。

責任の大きさは、失敗できないという管理職には、プレッシャーがかかります。扱う金額が大きい、自分が意思決定をしなくてはいけない、などいろいろな仕事の責任に伴うプレッシャーがあります。

自分の仕事をどれくらい裁量権をもてるかどうかは、ストレスに大きな影響があるといわれています。要は、自分のやり方で仕事をすすめられていればストレスは感じにくいということです。これは管理職より一般社員の方がストレスを感じやすい部分です。


具体的には経験が少なく慣れない業務ですと、仕事の効率はどうしても落ちてしまいます。達成感が得にくくなってしまうので、量以上のストレスがかかります。

見通しの立てにくい業務も、全体像がみえないので結果につながりにくく、達成感が得にくいです。今やっていることが、全体の中でどのような位置づけになるかがわかりにくいと、ストレスはより増加します。また、電話対応などの流動的な業務のが多いと、担当業務の効率があがらないようなこともあります。

質的に変化のある業務は、その変化にあわせていくことが大変です。予期せずに業務が変化したり、突発的に業務が加わったりすると、ストレスは大きくなります。

【仕事のストレス(社外の人間関係)】
直接お客さんと関係を築く必要がある方は、さまざまなストレスがあります。

顧客の相性の問題もあります。つきあいにくい顧客はいらっしゃるかと思います。それこそ、問題のあるお客さんに接する方もいらっしゃると思います。それでも会社の名刺をもってきている以上、つきあわざるを得ません。
そのつきあいが半ば強要されてしまうこともあります。サービスにお金を出してもらう顧客には、そのサービスの内容だけでなく日頃のつきあいも影響します。ですから、無理をしなくてはいけない方もいらっしゃいます。

休日や勤務時間外などに臨時対応しなくてはいけないこともあります。「いつ呼ばれるかわからない」という心持ちで休日をすごすと、あまり休まりません。

それでも仕事が上手くいっているときは、大きくは問題にならないことが多いです。顧客との関係性が崩れていくのは、ミスが起きた時です。1度ミスが起きてしまうと、その対応はもちろんのこと、原因説明、予防などと対策を講じなければいけません。
そのような時に、会社としての建前を顧客に伝えなければいけないこともあります。直接伝えることもストレスになりますが、それ以上に顧客への伝え方を決定するほうのストレスも大きいです。

【仕事のストレス(社内の人間関係)】
会社は長い時間を過ごす場所です。そこでの人間関係が上手くいかないと、大きなストレスになります。会社での人間関係としては、部下・同僚・上司・部署・会社の5つの対象との関係性をみていきましょう。

部下とうまくつきあって円滑に仕事をしていくことは、とても難しいです。管理職としても自身の評価されるポイントになります。部下に信頼されていないと感じながら仕事をしていくことは大きなストレスになります。

同僚との人間関係が上手くいかないと、困った時に相談することもできません。また、疎外感をもちながら職場で仕事をしていくのもストレスになります。

そして上司との人間関係は、自分の評価にも影響するので大きなストレスになります。仕事のストレスとして最も多いのは、「上司から自分が思うように評価されていない」となります。

また、個々の人間関係ではありませんが、部署としての雰囲気や会社のビジョンへの共感も影響があります。

産後うつ -2024年10月28日-

産後うつとは、出産後数か月以内に発生するうつ病です。
多くの女性は、出産後の経過が正常な場合でも何らかの精神的な変調を経験します。ホルモンの急激な変化、出産そのものによるストレスや疲労など、女性が“母になる”変化を経験します。このため、出産後の女性の約3050%は、産後25日ごろに涙もろさや不安定な気分、抑うつ、イライラなどを経験しますが、多くの場合一過性で自然に軽快します。しかし抑うつ気分や過度の不安などが2週間以上続く場合は、産後うつ病の可能性があります。
日本では出産を経験した女性の約 10% が産後うつ病を発症するといわれており、出産期に見逃してはならない病気の つです。

【症状】
産後うつ病は産後23週間~3か月の間に発症しやすいとされています。“授乳がうまくいかず母親失格だと思う”、“周囲のサポートが乏しく疲労がたまり、睡眠不足が連続した”などの状況が重なり症状が現れる場合もあります。

l  産後うつ病では以下のような症状がみられます。

l  寝ようと思っても眠れない

l  食欲がなくなり体重の減少がみられる

l  抑うつ気分

l  興味または喜びの喪失

l  集中力の低下

l  気力の減退

l  決断が困難

l  赤ちゃんがかわいいと思えない

l  消えてしまいたいと感じる(自殺念慮)

赤ちゃんのお世話や家事ができなくなったり、自殺念慮が現れたりする場合は、ためらわずに精神科や心療内科など専門科への相談や受診を検討し、治療を受けることが必要です。

【原因】
産後うつは、さまざまな要因が重なって発症するといわれていますが、原因ははっきりと解明されていません。しかし、最近の研究などによって以下の3つが大きく影響しているのではないかといわれています。 

l  肉体的、精神的ストレス

l  周囲のサポート不足

l  妊娠期または過去のうつ病経験

特に産後は、ホルモンバランスの急激な変化によりストレスに耐える脳の働きが低下し、物事を悪い方向に考えてしまいやすくなるといわれています。その結果、「親ならやらなければならない」とひとりで抱え込むなどといった悪循環に陥ってしまうこともあります。

【治療】

産後うつ病の治療は、薬物療法と精神療法が主体となります。
母乳育児中の服薬については、服薬によるメリットや、母乳や乳児への薬物の移行、母乳育児の負担などを総合的に判断して方針を決定します。母乳育児中の薬物療法への抵抗から精神科受診をためらう方もいますが、母乳移行が少ないタイプの薬剤や、医師や臨床心理士によるカウンセリングなどの治療もあります。本人が受診の判断をできない場合、家族のすすめで受診につながることもあります。

1.カウンセリングによる精神療法(心理療法)
産後うつの治療法として、カウンセリングによる精神療法(心理療法)が有効です。心理療法では、現状を本人や家族にヒアリングし、ネガティブな思考を生む根源となっている事柄を特定します。現状を把握したうえで、改善する方法をアドバイスします。 

2.抗うつ薬などを用いた薬剤療法
産後うつと診断され、医師が必要と判断した場合、薬剤療法による治療がおこなわれます。また症状によっては、不安を軽減させる抗不安薬や睡眠導入剤が使用されることもあるでしょう。

ただし、授乳の問題もあるため、本人や家族と相談のうえ、納得したうえで薬剤治療を受けることが大切です。

薬の効果や副作用には個人差があるため、服用中は医師と相談しながら適切な薬剤治療を受けることが大切です。授乳中でも使用できる薬剤もあるため、専門の医師とよく相談して治療を進めましょう。

薬の内服中に注意したいのが、自己判断での休薬です。特に抗うつ薬は、自己判断で辞めてしまうと症状が悪化してしまう可能性があるため注意が必要です。

3.ストレスを減らすための環境調整

産後うつの方に対して、日常生活のストレスや育児の負担を減らすことは必要不可欠です。産後うつの治療法のひとつとして、こうした負担を軽減し、メンタルヘルスを維持するための環境調整がおこなわれます。

産後うつに対する環境調整では、以下の3つの視点を重視しています。

l  親の負担を減らすこと

l  いつでも相談できる環境をつくること

l  休息できる環境をつくること

「季節性感情障害」「季節性うつ」とは? -2024年11月11日-

冬になると気持ちが落ち込んでやる気が起きない、という人はいませんか。
これは「季節性感情障害」「季節性うつ」といわれるもので、いわゆる「冬季うつ」とも呼ばれています。

季節性うつは秋から冬にかけて日照時間が減ることによって、脳内における「セロトニン(精神を安定させるホルモン)」の量が不足することが要因とされています。また、暗い時間が長くなり、「体内時計」を調整する機能が乱れることで、身体への影響が出ることがあります。
いつもより不調を感じやすい時期に心身を労わる方法について学びましょう。

季節性うつと一般的なうつ病との違い】

同じ症状

l  気分の落ちこみ

l  いつもは楽しめることを楽しめない

l  気分がイライラする

l  体がだるく、倦怠感がある


違う症状
一般的なうつ病:食欲低下、睡眠不足、体重減少

季節性うつ:食欲向上、過眠、体重増加

治療法

季節性うつを緩和するには、

l  朝に日光を浴びてセロトニンの量をアップさせる

l  自宅・職場の照明を明るくする

l  運動などのセルフメンタルケアをする

などが有効です。

また、一人で悩むと落ち込みが増大してしまうことがあります。生活習慣を改善したり、人と会うことを意識したりして、季節性うつに対処しましょう。

  朝の散歩でセロトニンを合成する

セロトニンは、十分に分泌されると精神的な安定が得られるので、『幸せホルモン』とも呼ばれています。
このセロトニンの分泌量が、冬になると少なくなるのです。

「朝日の照度は1万ルクス、曇った朝でも5000ルクスあります。冬期に不足しがちなセロトニンの分泌を促進するのに十分な量なので、毎朝散歩してください。

  自宅や仕事場の照明を明るいものに取り替えると効果的

治療では「高照度光療法」が行われることが多い。

太陽光やそれと同等の光を浴びることで体内時計を調節して生体リズムを整える治療法で、多くの患者で効果があるという。

「睡眠衛生指導」とは? -2024年11月21日-

不眠症には、①狭義の不眠症と、②他の病気の症状としての不眠など、原因がはっきりしているものがあります。前者は原発性不眠症、後者は続発性不眠症とか二次性不眠症と言われます。また、うつ病や統合失調症などの精神疾患による不眠がその代表で、また薬物の影響として不眠が見られる場合もあります。
 ③「不眠症」には分類されませんが、睡眠障害として124時間のリズムがうまく取れず、結果として望ましい時間に眠ること・起きることができない病気もあります。その他睡眠時無呼吸症候群なども一般に知られるようになってきました。これらも「不眠症」とは呼びませんが重要な睡眠のトラブルです。

 若い人の睡眠の悩みは大抵②か③であり、残念ながらこれらは医療の手助けが必要です。

さて睡眠についてはいくつかの誤解があります。

l  8時間眠るのが望ましい

l  早寝早起きが大切である

l  寝床に横たわっているだけでも睡眠と同じような効果がある

 いずれも間違いです。年齢とともに睡眠時間はだんだん短くなってゆくものであり、60歳代では平均6時間ちょっと、70代ではそれ以下です。日中、眠気のために活動が障害されるということが大事になります。
 また夜、することもないと「早寝早起きが良い」とばかりに早く床に就こうとします。齢をとると早く眠くはなるのですが、あまり早く寝てしまうと深夜に起きてしまいます。そこで、もう眠れないからと睡眠薬を求める方もいます。
 3つ目の、横になっているだけでも睡眠と同じ効果がある、という誤解のために、長く床に入っています。すると横になっていながら覚醒している時間が長くなり、不眠への不安がますます強くなりがちです。その時浅いレベルの睡眠があると、翌日の睡眠に影響します。「床上時間」と「睡眠時間」はできるだけ差がない方がよいのです。
 ですから、眠れない人の睡眠のコツは「遅寝・早起き」です。どうせ眠れないなら眠くなるまで床に就かない、目が覚めたら起き上がる。これが翌日以降の睡眠をよくしてくれます。「遅くに寝なさい」というと「その時間まで何をして過ごせばよいのですか!?」と不満げな方も多いのですが、これは生活習慣ですからやがて慣れてゆきます。

 他に睡眠に良いことは、朝、日の光を浴びること。これによって夜に睡眠誘発物質が体から分泌されます。
 案外大切なのはお風呂です。体温が下がってくる頃に眠くなりますので、夜ゆっくりお風呂に入り一旦体温を上げることは大切です(寝る直前ではありません)。それでもダメなときには医療にかかることになりますが、病院に行く前に以上のことはやってみる価値があります。

最後に厚生労働省から「睡眠障害に対する12の指針」も紹介します。

健康づくりのための睡眠指針2014 ~睡眠12箇条~
1.良い睡眠で、からだもこころも健康に。
2.適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。
3.良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。
4.睡眠による休養感は、こころの健康に重要です
5.年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を。
6.良い睡眠のためには、環境づくりも重要です。
7.若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。
8.勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。
9.熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。
10.眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない。
11.いつもと違う睡眠には、要注意。
12.眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。

ぜひ、やってみて、快眠を得ましょう。

続発性不眠症 -2024年12月9日-

続発性不眠症は、他の病気や状態が原因で引き起こされる不眠症の一種です。一般的な不眠症は、特に原因が明確でない場合を指しますが、続発性不眠症は何らかの別の身体的または精神的な疾患や状況によって引き起こされます。
例えば、慢性的な痛み、呼吸器系の疾患(喘息や睡眠時無呼吸症候群など)、消化器系の問題(胃食道逆流症など)、うつ病や不安障害、薬物の副作用、またはアルコールやカフェインの過剰摂取などが原因となります。


続発性不眠症の原因

続発性不眠症は、さまざまな医学的問題が根本的な原因となることが多いです。
例えば、うつ病や不安症は不眠症を引き起こす最も一般的な精神的な原因です。
これらの精神的な問題では、寝つきが悪くなったり、途中で目が覚めたりすることがよくあります。また、痛みを伴う慢性疾患(例えば関節炎や腰痛)や呼吸器系の問題(例えば喘息や睡眠時無呼吸症候群)は、睡眠を妨げる原因となることがあります。薬物治療の影響やアルコール依存症、カフェインの摂取過多も不眠症を引き起こす可能性があります。

症状
続発性不眠症の症状は、主に睡眠の質や量の低下として現れます。寝つきが悪くなる、途中で何度も目を覚ます、または早朝に目が覚めて再び眠れなくなるといった症状が見られます。また、睡眠が浅いため、日中の眠気や疲労感が続き、集中力や記憶力の低下が起こることもあります。加えて、精神的な問題が影響している場合、気分の落ち込みや不安感が強くなることがあります。


診断と治療

続発性不眠症の診断には、まず基礎疾患の有無を確認することが重要です。医師は、症状の経過や生活習慣、他の病歴を詳細に聞き取り、必要に応じて検査を行います。治療は原因に応じて異なります。
例えば、うつ病が原因の場合は抗うつ薬や認知行動療法(CBT-I)が有効とされています。慢性疼痛が原因の場合は、痛みの管理を行うことが必要です。また、睡眠衛生を改善することや、薬物療法(睡眠薬)の使用も一部の場合で考慮されます。
ただし、睡眠薬は長期的に使用すると依存症になる可能性があるため、短期間での使用が推奨されます。

予防と生活改善

続発性不眠症を予防するためには、生活習慣を改善することが大切です。規則正しい睡眠時間を守る、寝室の環境を整える(暗く静かな環境を作る)、アルコールやカフェインを避ける、そして寝る前のリラックスする時間を持つことが推奨されます。また、ストレス管理を行うことで精神的な健康も保ちやすくなります。

マタニティブルー -2024年12月15日-

妊婦さんの心配の一つに、マタニティブルーがあります。

「妊娠や出産を喜べなかったり赤ちゃんを見ても幸せを感じられなかったら、どうしよう」「子育てがきちんとできなくなったらどうしよう」などと思ってしまうかもしれません。
マタニティブルーとは、妊娠中や出産後に生じる「一過性の情緒不安定な状態」をいいます。主な症状は軽度の抑うつ、涙もろさ、不安、集中力の低下です 。一過性ではなく治療が必要なうつ病とは異なります。

妊娠・出産は人生の一大事であり、前後で生活が大きく変化します。また、妊娠・出産の負荷によって心身も大きく疲弊するでしょう。このような状況のなかで「心の混乱」が生じるのはめずらしくありません。日本では、約3050パーセントの妊産婦がマタニティブルーを経験するとされます 。

マタニティブルーは、妊娠中なら妊娠初期から妊娠中期、出産後なら早期に起こりやすいとされます。多くの場合、期間は2週間程度の一過性です。ただし、発症時期や期間には個人差があります。
妊娠中のマタニティブルーは、妊娠に伴うホルモンバランスの変化、ひどいつわりや食欲不振、体型の変化、思うように体が動かない心理的ストレス、出産に対する不安、将来に対する不安などが要因になります。抑うつが重度になると、治療が必要な「妊娠期うつ病」に移行するおそれがあるため注意しましょう。

出産後のマタニティブルーは、産後310日ごろに発生し、通常は2週間ほどで消失するとされています。体内のエストロゲン量やプロゲステロン量が急激に低下し、生活や環境の変化、育児の疲労などに直面するためです。

【マタニティブルーの主な症状】

軽度の抑うつ、涙もろさ、不安、集中力の低下です。特に「涙もろさ」は特徴的で、重要なサインとされます 。

《メンタル面の不調》

  • 気分が落ち込む
  • 急に泣きたくなる、涙が出る
  • 情緒が不安定になる
  • 強い恐怖心や不安感をいだく
  • イライラする

《身体面の不調》

  • 不眠
  • 食欲不振
  • 過食
  • 動悸

症状は、通常2週間ほどで治まり、特に治療を必要としないことが多いです。非常につらく苦しい状態ですが、通り雨のようなものと考え、心と体を休めて通り過ぎるのを待ちましょう。

【原因】

        女性ホルモンの変動

マタニティブルーの主な原因の一つは、産前・産後の急激なホルモンバランスの変化と考えられています。特に出産直後の変動は大きく、妊娠中にエストロゲンとプロゲステロンを大量に分泌していた胎盤が排出されるため、体内のエストロゲン量とプロゲステロン量が大きく低下し、ほぼゼロになるのです。
このような急激なホルモンバランスの変化が自律神経のはたらきに影響をもたらし、精神的な不安定さを中心とした心身のさまざまな症状を引きおこすと考えられています。

        心理的ストレス

心理的ストレスも、マタニティブルーの原因の一つと考えられています。初めて妊娠・出産を経験した女性や、もともと精神的な不調を抱えていた女性、周囲のサポートが少ない女性、夫婦関係などの家族関係に問題を抱えた女性に、マタニティブルーの発生が多いためです。

妊娠・出産により生活は大きく変わります。思うように外出ができず、行動が制限されることも多くあります。育児や将来に対する不安もあるでしょう。大きいおなかや生まれたばかりの赤ちゃんを目にして、母親としての責任にプレッシャーを感じるかもしれません。産後の体の変化への受容も必要です。

        体力の低下や睡眠不足

妊娠中の疲労、出産による体力の低下、授乳や育児による疲労や睡眠不足などもマタニティブルーの発生に影響すると考えられています。

【対処法】

  誰かに話す

不安や悩み、悲しい気持ち、つらい気持ちを一人で抱えず、家族や友人、先輩ママ、医師や助産師、保健師などに積極的に話しましょう。話がまとまらなくてもよいので、現在の気持ちを言語化し、感情を表に出すことが大切です。ママ向けのイベントや病院や産院で行われている母親学級へ参加したり、お住まいの自治体が行っている妊産婦向け相談窓口・電話相談などのサービスや民間で行っているサービスを調べて利用するのもよいでしょう。

マタニティブルーになりやすい人には、責任感が強い、完璧主義、我慢強い、一人で抱え込みやすい、感情を表出するのが苦手などの傾向がみられます。「話しても何にもならない」「相手に負担」「迷惑をかけてしまう」などと思わずに話していきましょう。

  ゆっくり休む

マタニティブルーに限らず、精神的な不調の際は十分な休養が必要です。パートナーや家族の協力を得て、ゆっくりと休みましょう。十分寝ることも大切です。また、仕事を休んだり家事を家族に任せたり、赤ちゃんを預けたりして、自分のためだけの時間をつくるとよいでしょう。

  軽く運動をする

負担にならない程度の軽い運動を行ってみましょう。運動は自律神経を整え、ストレスを解消します。また、脳内のセロトニンの分泌量が増えて心に安らぎをもたらす効果もあるのです。

冬場のメンタルヘルス -2024年12月23日-

セルフメンタルヘルスの第一歩は、自分の状態に気づき、認識することです。
自分の感情や思考、体調の変化に敏感になり、それを理解することが、心の健康を保つための重要な基盤となります。
それを基に、自分に合った方法でリラックスしたり、ストレスを管理したり、自己肯定感を高めていくことが、心の健康を保つために大切なプロセスとなります。

1. 自己認識を高める

自分の感情や思考に対して意識的に注意を向けることが大切です。日々の中でどんな時にストレスを感じるのか、どんなことが自分を幸せにするのかを振り返り、感情の波を知ることが第一歩です。これには、以下の方法があります。

  • 感情を記録する: 日々感じたことを簡単にメモしたり、日記をつけることで、自分の感情の動きに気づきやすくなります。
  • 思考のパターンを確認する: ネガティブな思考や自分に対する批判的な考えが多いと感じた場合、それに気づいて自分を見つめ直すきっかけとなります。

2. 自分の限界を理解する

自分がどれだけのことをこなせるか、またはどれだけの負荷をかけているかを理解することも大切です。過度に無理をしていると、ストレスが溜まり、心の健康に影響を与えることがあります。

  • 休息を意識する: 自分に休息が必要だと感じたとき、無理をせずに休むことを選択できることが重要です。過労や疲れが心に影響を与えるため、適切なタイミングでリセットすることが大切です。

3. 感情の表現を大切にする

自分の感情を押し込めることなく、適切な方法で表現することがセルフケアの第一歩です。感情を言葉にすることは、心の整理を助け、ストレスを軽減する手段となります。

  • 信頼できる人と話す: 自分の感情や悩みを友人や家族と話すことで、共感を得たり、気持ちを整理することができます。
  • 創造的な表現をする: 絵を描く、音楽を聴く、日記を書くなど、感情を表現する方法を見つけることも有効です。

4. ポジティブな自己対話を意識する

自分に対する内面的な言葉が、心の健康に大きな影響を与えます。自己批判が強いと、ストレスや不安が増すことがあります。自分を励ます言葉を使うように意識することが大切です。

  • 自己肯定感を高める: 自分が達成したことや、うまくいったことを振り返り、自分を褒めることが自信を育て、心の健康を保つ助けになります。

5. ストレス管理を学ぶ

心の状態に気づいた後、次に重要なのは、どのようにストレスに対処するかを学ぶことです。自分がストレスを感じる場面や状況を特定し、その対処法を準備しておくことが効果的です。

  • リラックス法を取り入れる: 深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラックス法を学び、日常に取り入れることで、ストレスを軽減することができます。

さらに冬場は・・・冬場は日照時間が短く、気温が低いため、心身にさまざまな影響を与えることがあります。
特に「冬季うつ病(季節性情動障害)」など、季節の変わり目に関わる心の問題が現れやすい時期です。
セルフメンタルヘルスを保つためには、以下の方法を取り入れてみることが効果的です。

1. 日光を浴びる

冬場は日照時間が短くなるため、気分が沈みやすくなります。可能な限り、朝や昼の時間帯に外に出て、太陽の光を浴びるようにしましょう。自然光はセロトニンの分泌を促進し、気分の安定に役立ちます。

2. 適度な運動をする

寒い季節でも、体を動かすことは心の健康に非常に有益です。ウォーキングやストレッチ、ヨガなどを取り入れることで、血行が良くなり、ストレス解消にもつながります。室内でできる軽いエクササイズも効果的です。

3. 十分な睡眠をとる

冬は寒さや暗さが影響し、睡眠の質が低下することがあります。規則正しい睡眠時間を確保し、リラックスした環境で眠ることが心身の回復に大切です。快適な寝具や寝室の温度調整を意識しましょう。

4. バランスの取れた食事を摂る

冬は食べ物が豊富な季節ですが、脂肪分や糖分の高い食事は気分の不安定さを引き起こすことがあります。新鮮な野菜や果物、穀物を多く取り入れ、ビタミンDを含む食品(魚や卵、キノコなど)も意識的に摂ると良いです。

5. 自分を大切にする時間を持つ

冬はどうしても外出が減りがちで、孤独感を感じることがあります。そのため、趣味やリラックスできる時間を意識的に作り、自分をいたわることが大切です。読書や映画鑑賞、アートやクラフトに触れるなど、心が安らぐ活動をしましょう。

6. ストレス管理とリラックス法

冬の寒さや忙しさでストレスが溜まりやすくなります。瞑想や深呼吸法、マインドフルネスの練習はストレスを軽減する効果があります。また、趣味やリラックスできることに意識的に時間を割くことで、気持ちをリフレッシュできます。

7. 友人や家族とのつながりを大切にする

冬の季節は孤立しやすい時期でもありますが、友人や家族とのつながりを大切にし、気軽にコミュニケーションを取ることが心の健康に役立ちます。電話やビデオ通話でつながるだけでも、安心感を得られることがあります。

これらの方法を取り入れ、自分のペースでメンタルヘルスを維持できるよう工夫していきましょう。

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