-精神科コラム- 2025年6月

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暑さ対策のメンタルヘルス -2025年6月23日-

夏の暑さは、私たちの身体に汗や疲れをもたらすだけでなく、心にも大きな影響を及ぼします。
近年、温暖化の影響で猛暑日が増え、熱中症の危険性が高まると同時に、メンタルヘルスの不調を訴える人も増えてきました。「なんとなく気分が晴れない」「イライラしやすい」「眠れない」といった症状が、実は暑さによるものだと気づかずに過ごしている人も多いのです。


【暑さが心に及ぼす具体的な影響】

1. 睡眠の質の低下

暑いと寝つきが悪くなり、途中で目が覚めてしまうことが多くなります。エアコンや扇風機を使用しても、室温が高すぎたり湿度が高かったりすると、深い眠りが妨げられます。睡眠の質が落ちると、自律神経のバランスが崩れ、日中の集中力低下や情緒不安定につながります。睡眠不足は、うつや不安障害のリスクを高める要因としても知られており、長期的にはメンタルヘルスに深刻な影響を及ぼします。


2. 自律神経の乱れ

高温多湿の環境では、身体は体温を一定に保つために多くのエネルギーを使います。このとき、心拍数や血圧を調節する自律神経が過剰に働くため、バランスが乱れやすくなります。自律神経の乱れは、動悸、不安感、イライラ、食欲不振など、心身両面の不調を引き起こします。特にもともとストレスに弱い人や、疲れがたまりやすい人にとっては、暑さは大きな負担となります。


3. 社会的孤立と気分の落ち込み

夏はイベントが多い一方で、外出を控える人も増える季節です。暑さにより外出を避けたり、人との交流が減ることで、孤独感を強く感じることがあります。特に一人暮らしの高齢者や、家庭内に支援の少ない人は、外界との接点が少なくなると、気分の落ち込みや無力感が強まる傾向があります。社会的孤立はうつ病の大きなリスク因子の一つです。


4. 暑さによる攻撃性の増加

暑さは人の感情にも直接的な影響を及ぼします。研究によると、気温が高くなると攻撃的な言動が増える傾向があると報告されています。イライラや怒りの感情は、他者とのトラブルを招きやすく、人間関係のストレスが増すことにもつながります。これがさらにメンタルに悪影響を及ぼすという、悪循環に陥りやすくなります。


【暑さから心を守るための対策】

では、暑さによるメンタルヘルスへの悪影響を防ぐには、どのような対策が有効なのでしょうか。以下に、すぐに実践できるいくつかのポイントを紹介します。


1. 睡眠環境を整える

室温は26~28度、湿度は50~60%程度を目安に、快適な睡眠環境を整えましょう。エアコンのタイマーや除湿機能を上手に活用し、寝具も通気性の良い素材を選ぶことで、睡眠の質を保つことができます。


2. 規則正しい生活と食事

暑さで食欲が落ちる時期こそ、ビタミンB群やミネラルを意識的に摂取し、エネルギーを維持しましょう。冷たいものの摂りすぎは胃腸に負担をかけるため注意が必要です。また、生活リズムが崩れると自律神経がさらに乱れやすくなるため、決まった時間に起き、食べ、寝るという基本を意識することが重要です。


3. 冷房と外気のバランス

冷房の効いた室内と外の気温差が大きいと、身体がストレスを感じやすくなります。冷房病の原因にもなるため、冷やしすぎないようにし、外出時には帽子や日傘、水分補給を忘れずに行いましょう。汗をかいた後は着替えをして、体温調整を助ける工夫も有効です。


4. 積極的なストレス解消法

音楽や趣味の時間、軽い運動、友人との通話など、自分に合ったストレス解消法を見つけておくこともメンタルヘルスの維持に効果的です。朝夕の涼しい時間帯に散歩をするなど、自然との接点を持つことも心に良い影響を与えます。

5. 異変を感じたら専門家に相談を

「ただの夏バテ」と思って放置せず、気分の落ち込みが続いたり、日常生活に支障が出ていると感じた場合は、早めに医療機関やカウンセラーに相談することが大切です。早期対応が、長引く不調を防ぐ鍵となります。

まとめ

暑さは私たちの体力だけでなく、心の状態にも大きな影響を与えます。「気候のストレス」は見落とされがちですが、確実に私たちの健康に作用しています。身体と心はつながっています。暑さに負けないためには、身体のケアと同時に心のケアも意識することが重要です。正しい知識とちょっとした工夫で、夏を健やかに乗り越えましょう。

アルコールとの付き合い方 -2025年6月2日-

【アルコールのメリット】

生活の中で、アルコールは特別な存在です。祝いや人との交流の場では欠かせない飲み物として広く親しまれており、多くの人にとって気分転換やリラックスの手段ともなっています。しかし、アルコールにはメリットがある一方で、健康や社会に対する深刻な悪影響も無視できません。

アルコールのメリットとして、まず挙げられるのは「精神的なリラックス効果」です。少量のアルコールは中枢神経を抑制し、緊張を和らげる作用があります。これにより、人との会話が弾みやすくなったり、ストレスを一時的に和らげたりする効果が期待できます。

また、赤ワインに含まれるポリフェノールなど、一部のアルコール飲料には抗酸化作用を持つ成分が含まれていることも知られています。これらは動脈硬化の予防や、血流の改善に役立つ可能性があるとされ、適量の飲酒は心血管系の健康にプラスに働くという研究も存在します。

さらに、社会的な側面も重要です。日本では「飲みニケーション」という言葉があるように、職場の人間関係を円滑にする手段としてアルコールが使われる場面は多くあります。プライベートにおいても、友人との集まりや家族との団らんなど、楽しい時間を演出するアイテムとしてアルコールは重要な役割を果たしています。

【アルコールの有害性】

しかし、アルコールのリスクは想像以上に大きく、慎重に扱う必要があります。

まず、最大のリスクは「依存性」です。アルコールは習慣性が非常に高く、長期間にわたる飲酒はアルコール依存症に発展する恐れがあります。依存症は本人の意志だけでは制御が困難であり、健康、仕事、人間関係など人生のあらゆる側面に悪影響を及ぼします。

また、アルコールは肝臓に強い負担をかけます。過剰な飲酒は脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変、さらには肝臓がんの原因となることが知られています。その他にも、がん(食道、胃、大腸、乳がんなど)や高血圧、脳卒中、うつ病など多くの病気との関連が指摘されています。

さらに、アルコールは感情や行動の抑制を鈍らせるため、暴力や交通事故、自傷行為など、社会的なトラブルを引き起こす要因にもなります。特に若年層や未成年者、妊婦の飲酒はリスクが非常に高く、適切な教育と環境づくりが求められます。

【健全な付き合い方とは】

では、アルコールとどう付き合えばよいのでしょうか。重要なのは「適量」と「頻度」を意識することです。一般に、厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒量」は、
1日平均純アルコール量で約20g程度(ビール中瓶1本、日本酒1合、ワイン2杯ほど)とされています。
これを守ることが、健康リスクを抑える第一歩です。
また、毎日飲むのではなく「休肝日」を設けることも大切です。肝臓を定期的に休ませることで、機能の回復を促し、長期的なダメージを防ぐことができます。

さらに、自分自身の「飲む理由」にも目を向けてみましょう。ストレス解消の手段として飲酒を習慣化してしまうと、気づかぬうちに依存に近づいてしまう可能性があります。ストレスに向き合う方法は、運動や趣味、睡眠の改善など多様にあります。アルコール以外の選択肢を持っておくことが、心身の健康を保つうえで重要です。

最後に、周囲との関係性も大切です。「飲めない人」や「飲まない選択をしている人」への配慮を欠かさないこと、無理に飲ませたり、飲まされたりしない風土づくりが、健全な飲酒文化を育てる土台となります。

【おわりに】

アルコールは、人生に彩りを加えてくれる存在でもあり、扱い方を間違えると大きなリスクとなる「諸刃の剣」です。私たちはその両面をよく理解し、自分の身体や心と対話しながら、責任ある飲酒を心がけていく必要があります。アルコールと上手に付き合うことは、自分自身や大切な人を守ることにつながります。その一杯を楽しむためにも、「飲み方」を見直す意識が、今、求められているのではないでしょうか。

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