-精神科コラム- 2025年6月

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アルコールとの付き合い方 -2025年6月2日-

【アルコールのメリット】

生活の中で、アルコールは特別な存在です。祝いや人との交流の場では欠かせない飲み物として広く親しまれており、多くの人にとって気分転換やリラックスの手段ともなっています。しかし、アルコールにはメリットがある一方で、健康や社会に対する深刻な悪影響も無視できません。

アルコールのメリットとして、まず挙げられるのは「精神的なリラックス効果」です。少量のアルコールは中枢神経を抑制し、緊張を和らげる作用があります。これにより、人との会話が弾みやすくなったり、ストレスを一時的に和らげたりする効果が期待できます。

また、赤ワインに含まれるポリフェノールなど、一部のアルコール飲料には抗酸化作用を持つ成分が含まれていることも知られています。これらは動脈硬化の予防や、血流の改善に役立つ可能性があるとされ、適量の飲酒は心血管系の健康にプラスに働くという研究も存在します。

さらに、社会的な側面も重要です。日本では「飲みニケーション」という言葉があるように、職場の人間関係を円滑にする手段としてアルコールが使われる場面は多くあります。プライベートにおいても、友人との集まりや家族との団らんなど、楽しい時間を演出するアイテムとしてアルコールは重要な役割を果たしています。

【アルコールの有害性】

しかし、アルコールのリスクは想像以上に大きく、慎重に扱う必要があります。

まず、最大のリスクは「依存性」です。アルコールは習慣性が非常に高く、長期間にわたる飲酒はアルコール依存症に発展する恐れがあります。依存症は本人の意志だけでは制御が困難であり、健康、仕事、人間関係など人生のあらゆる側面に悪影響を及ぼします。

また、アルコールは肝臓に強い負担をかけます。過剰な飲酒は脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変、さらには肝臓がんの原因となることが知られています。その他にも、がん(食道、胃、大腸、乳がんなど)や高血圧、脳卒中、うつ病など多くの病気との関連が指摘されています。

さらに、アルコールは感情や行動の抑制を鈍らせるため、暴力や交通事故、自傷行為など、社会的なトラブルを引き起こす要因にもなります。特に若年層や未成年者、妊婦の飲酒はリスクが非常に高く、適切な教育と環境づくりが求められます。

【健全な付き合い方とは】

では、アルコールとどう付き合えばよいのでしょうか。重要なのは「適量」と「頻度」を意識することです。一般に、厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒量」は、
1日平均純アルコール量で約20g程度(ビール中瓶1本、日本酒1合、ワイン2杯ほど)とされています。
これを守ることが、健康リスクを抑える第一歩です。
また、毎日飲むのではなく「休肝日」を設けることも大切です。肝臓を定期的に休ませることで、機能の回復を促し、長期的なダメージを防ぐことができます。

さらに、自分自身の「飲む理由」にも目を向けてみましょう。ストレス解消の手段として飲酒を習慣化してしまうと、気づかぬうちに依存に近づいてしまう可能性があります。ストレスに向き合う方法は、運動や趣味、睡眠の改善など多様にあります。アルコール以外の選択肢を持っておくことが、心身の健康を保つうえで重要です。

最後に、周囲との関係性も大切です。「飲めない人」や「飲まない選択をしている人」への配慮を欠かさないこと、無理に飲ませたり、飲まされたりしない風土づくりが、健全な飲酒文化を育てる土台となります。

【おわりに】

アルコールは、人生に彩りを加えてくれる存在でもあり、扱い方を間違えると大きなリスクとなる「諸刃の剣」です。私たちはその両面をよく理解し、自分の身体や心と対話しながら、責任ある飲酒を心がけていく必要があります。アルコールと上手に付き合うことは、自分自身や大切な人を守ることにつながります。その一杯を楽しむためにも、「飲み方」を見直す意識が、今、求められているのではないでしょうか。

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