-精神科コラム- 2025年5月

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五月病の正体 -2025年5月20日-

五月病の正体

「五月病」とは正式な医学用語ではありませんが、日本においては特に新年度が始まる4月の後、5月頃に見られる精神的・身体的な不調を指す俗称です。

五月病とは、新生活や新しい環境に適応しようとした4月の緊張状態が少し緩んだ5月に、心や体にさまざまな不調が現れる現象です。典型的には、新社会人や大学新入生に多く見られますが、異動や転勤、部署変更を経験した人など、環境が大きく変化した人すべてに起こり得ます。

主な症状は、倦怠感、意欲の低下、集中力の欠如、食欲不振、不眠、気分の落ち込みなどです。うつ病に似た症状が多く、一部は「適応障害」と診断されることもあります。

背景には、以下のような要因があります:

  • 環境変化に対するストレス

  • 期待やプレッシャーに対する緊張の反動

  • 人間関係の疲労

  • 目標喪失感(「やり切った」感による空虚さ)

  • 季節の変わり目による自律神経の乱れ

5月という時期に特有の、緊張が緩むタイミングで起こるため、「心のエネルギー切れ」ともいえる状態です。

五月病への治療と対処法

五月病の多くは一時的なもので、環境に適応していく中で自然に回復しますが、症状が長引く場合や日常生活に支障がある場合には、専門的な対応が必要です。

1. 生活リズムの見直し

規則正しい生活を送ることで、自律神経が安定し、心身のバランスが取れやすくなります。特に、十分な睡眠、適度な運動、バランスの良い食事が重要です。

2. ストレスの言語化・共有

信頼できる人に気持ちを話すだけでも、心理的負担が軽くなることがあります。日記をつけたり、カウンセラーと話したりすることで、感情の整理ができます。

3. 「頑張りすぎない」意識

新しい環境で「完璧であろう」「期待に応えなければ」と無理をしすぎると、心身に負荷がかかります。「できることを少しずつ」「休むことも大切」といった柔軟な姿勢が必要です。

4. 環境調整・相談

業務量が多すぎたり、人間関係が負担になっている場合は、上司や人事部門に相談して環境調整を図ることも重要です。学生の場合は、大学の学生相談室を活用しましょう。

5. 専門機関の利用

2週間以上にわたって抑うつ気分や無気力が続く場合は、精神科や心療内科を受診することが推奨されます。適応障害やうつ病などが疑われる場合、早期対応が症状の重症化を防ぎます。


周囲の人ができる支援

五月病の人に対しては、「無理に励まさない」「評価を押しつけない」「話を否定せずに聴く」ことが大切です。共感的な態度で接することで、本人が自分のペースで回復しやすくなります。

五月病は、多くの人が経験しうる「心の調整期」ともいえます。適切な休養とサポートがあれば、自然と元気を取り戻すケースがほとんどです。焦らず、自分に優しく、無理のない回復を目指しましょう。

食事から考えるメンタルケア ~心を支える食の力~ -2025年5月2日-

はじめに:食と心の深い関係

私たちの体は、食べたものでできています。それと同じように、私たちの「心」も、実は食事と密接に関係しています。ストレス、不安、うつ、集中力の低下、イライラ…こうしたメンタルの不調は、生活環境や心理的な要因だけでなく、栄養状態の偏りからも起こり得るのです。

現代社会は忙しく、インスタント食品やコンビニ弁当、過剰な糖質や脂質、カフェインの摂りすぎが日常的になっています。知らず知らずのうちに、私たちは「心を不安定にする食生活」を送っているかもしれません。

本稿では、栄養学、脳科学、心理学の知見を交えながら、「食事によって心の健康を守る方法=メンタルケア」を解説します。


第1章:メンタルと食事がつながる理由

1-1. 腸と脳は「第二の脳」でつながっている

腸は「第二の脳」と呼ばれることがあります。腸内には、脳に次いで多くの神経細胞が存在しており、自律神経を通じて脳と密接に連携しています。この腸と脳を結ぶルートは「腸脳相関(gut-brain axis)」と呼ばれ、ストレスが腸に影響を与える一方、腸の状態が脳の働きや感情に影響することも分かってきました。

たとえば、腸内環境が悪化すると、炎症性物質が増加し、それが血液を通じて脳に届くことで、うつ症状や不安感を引き起こすことがあるのです。

1-2. 脳内物質は「食べ物」から作られる

「幸せホルモン」として有名なセロトニンは、脳内の神経伝達物質のひとつで、不安やうつ、怒りを抑える働きがあります。このセロトニンの原料は、実は「トリプトファン」という必須アミノ酸で、体内では合成できず、食事から摂取する必要があります。

さらに、セロトニンの合成にはビタミンB6やマグネシウムなどの補助因子が必要です。つまり、脳を健やかに保つ神経伝達物質は、栄養素によって支えられているのです。


第2章:メンタルに効く栄養素とその働き

2-1. トリプトファン:セロトニンの原料

主な食材: 大豆製品(納豆・豆腐)、乳製品、卵、バナナ、ナッツ、魚、七面鳥、牛乳
トリプトファンは、リラックスや安心感をもたらすセロトニンのもとになります。特に朝食に摂ると、日中の心の安定に役立ちます。

2-2. ビタミンB群:神経の働きを支える

主な食材: レバー、豚肉、玄米、青魚、卵、海苔、納豆
ビタミンB1は「疲労回復のビタミン」、B6は「脳内物質の合成に不可欠」、B12は「神経の伝達を正常に保つ」といったように、B群は神経系の健康維持に欠かせません。ストレスが多いほど、これらのビタミンは多く消費されます。

2-3. オメガ3脂肪酸:抗炎症と脳機能の維持

主な食材: 青魚(サバ・イワシ・サンマ)、亜麻仁油、チアシード、くるみ
オメガ3脂肪酸(EPAやDHA)は、脳の構成成分でもあり、炎症を抑える働きがあります。これが不足すると、うつ傾向が強まる可能性があるとする研究も多くあります。

2-4. 鉄・亜鉛・マグネシウム:脳機能と感情の安定に不可欠

鉄: 赤身肉、レバー、ほうれん草、ひじき
亜鉛: 牡蠣、牛肉、卵、かぼちゃの種
マグネシウム: ナッツ、海藻類、玄米、豆類

これらのミネラルは、感情の調整、脳のエネルギー代謝、神経伝達に関わるため、慢性的な不足がメンタル不調の引き金になります。


第3章:避けたい食品と食習慣

3-1. 糖質のとりすぎ

甘いお菓子や清涼飲料水を頻繁に摂ると、血糖値が急激に上下し、それに伴って気分も不安定になります。また、砂糖の過剰摂取は脳の炎症や記憶力の低下、うつ症状とも関係しているといわれています。

3-2. カフェインとアルコールの乱用

適度なカフェインには覚醒作用がありますが、摂りすぎると不安感や不眠を引き起こすことがあります。また、アルコールは一時的にストレス解消に思えるかもしれませんが、長期的には脳内物質のバランスを崩し、依存や気分障害を招く恐れがあります。

3-3. 極端なダイエットや偏食

栄養バランスを無視したダイエットや、炭水化物を極端に減らす食事法は、脳のエネルギー不足やホルモンの乱れを招きます。特に若年層や女性に多いこの傾向は、摂食障害や抑うつ傾向とも関連があるため注意が必要です。


第4章:実践!心を整える食事の工夫

4-1. 朝食は「セロトニンのスイッチ」

朝にトリプトファンを含む食事と太陽の光を浴びることで、セロトニンの分泌が促されます。例:納豆ご飯+卵焼き+味噌汁+バナナなど。

4-2. 腸内環境を整える発酵食品と食物繊維

ヨーグルト、味噌、キムチ、納豆などの発酵食品と、野菜、海藻、きのこ類の食物繊維は、腸内の善玉菌を増やし、腸脳相関を改善します。

4-3. 「まごわやさしい」のバランスを意識

これは日本の伝統的な食材を表す頭文字で、バランスの良い食事のヒントになります。

  • ま:豆類

  • ご:ごま(種子類)

  • わ:わかめ(海藻)

  • や:野菜

  • さ:魚

  • し:しいたけ(きのこ)

  • い:いも類

これらを意識することで、自然と心にも体にもやさしい食事になります。


第5章:シーン別・メンタルケアに効くレシピ例

5-1. ストレスがたまっているとき

→「さば缶とひじきの炊き込みご飯」
→「ごま入り豚しゃぶサラダ」

5-2. 不安で眠れないとき

→「豆腐とわかめの味噌汁」
→「バナナとナッツのハチミルクヨーグルト」

5-3. 朝から元気を出したいとき

→「納豆卵かけ玄米ご飯+青菜の味噌汁」
→「オートミールとバナナの焼きグラノーラ」


第6章:職場・学校・家庭での実践ポイント

  • コンビニでも「トリプトファン+ビタミンB6+炭水化物」のセットを意識(例:おにぎり+ゆで卵+味噌汁)

  • 子どもや高齢者には、食材の色や香りを楽しめる調理で食欲促進

  • 家族で「食べながら会話する」時間が、メンタルケアとしても効果的


おわりに:心を整えるには「食べる」ことから

心のケアというと、カウンセリングやストレスマネジメントなど心理的なアプローチが注目されがちですが、「毎日の食事」も心の健康の土台になります。今日からできる小さな食習慣の見直しが、未来のあなたの心をやさしく守ってくれるでしょう。

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