-精神科コラム- 2025年7月

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服薬アドヒアランス-2025年7月7日-

【服薬アドヒアランスの大切さ】

薬を使った治療において、「正しく薬を使い続けること」はとても重要です。これを専門用語で「服薬アドヒアランス(Medication Adherence)」と呼びます。これは、単に「医師に言われた通りに薬を飲む」という意味だけではありません。アドヒアランスとは、患者様ご自身が治療の内容を理解し、納得し、自らの意思で治療に協力しようとする姿勢を指します。

つまり、医師からの指示を一方的に受け入れる「服従」ではなく、患者様が主体的に治療に関わっていくという考え方です。医療は、患者様と医療者の「協働」で成り立つものです。そのため、薬の服用もまた、治療の一部として「自分のために行うこと」として理解し、前向きに取り組むことが重要なのです。

特に慢性疾患や精神科領域の疾患では、症状が目に見えにくく、薬の効果もすぐには実感できない場合が多いため、「もう治ったからいいや」「薬を飲まなくても調子が良いから大丈夫」といった判断をしてしまいがちです。しかし実際には、症状がなくても病気が体の中で進行していたり、再発のリスクが高まったりすることがあります。

また、服薬アドヒアランスが不十分になると、以下のような影響が出ることが知られています:

  • 症状の再発・悪化

  • 入院や再治療のリスク上昇

  • 医療費や通院回数の増加

  • 信頼関係の低下や不安の増加

だからこそ、医療者は「どうすれば無理なく薬を続けられるか」を患者様と一緒に考えたいと思っています。薬をきちんと飲むことは、誰にとっても簡単なことではありません。日常生活の中で忘れてしまったり、薬に対する不安や抵抗感を持ったりするのは、ごく自然なことです。

大切なのは、「飲めなかったこと」に罪悪感を抱くのではなく、「なぜ飲めなかったのか」を一緒に見つめ直し、より良い方法を考えていくことです。


【服薬がうまくいかない方へ、私たちからお伝えしたいこと】

私たちは日々の診療の中で、「薬を飲み忘れてしまう」「副作用が気になって飲めない」「飲んでも効果が感じられない」「薬に頼りたくない」といった声をたくさんお聞きします。それは決して珍しいことではなく、多くの方が経験することです。薬を飲み続けることの方が、むしろずっと難しいという現実があります。

たとえば、仕事や家庭のことで忙しくしていると、ついうっかり飲み忘れてしまうこともありますし、薬の種類が多いとそれだけで負担に感じてしまうこともあります。また、副作用や長期的な服用への不安、そもそも「本当に薬が効いているのか分からない」という疑問もあるかもしれません。

ですが、薬を継続して服用することで、再発や悪化のリスクを防ぐことができます。とくに精神科の薬では、「症状が落ち着いた後の中断」によって再発率が2倍以上に高まるというデータもあります。再発を繰り返すと、治療に対する自信を失ったり、仕事や家庭生活にも影響が及んでしまうこともあります。

だからこそ私たちは、「なぜ薬を飲みにくいのか?」という背景にしっかり向き合い、対話を大切にしたいと考えています。薬の種類や量を見直したり、飲みやすい工夫を取り入れたり、必要に応じて他の治療法と組み合わせたり、選択肢はたくさんあります。

もし、今、薬を続けることが難しいと感じておられるなら、どうか一人で悩まず、お気持ちをお話しください。私たちは、服薬を「義務」ではなく、「一緒に考える治療の選択肢」として、患者様と向き合いたいと思っています。

薬は、症状を和らげ、生活の質を保つための一つの道具です。だからこそ、「自分に合った薬の付き合い方」を一緒に探していきましょう。治療の主役は、いつでも患者様ご自身です。私たちは、その歩みに寄り添うパートナーでありたいと願っています。

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