-精神科コラム- 2025年11月

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心と体はつながっている~運動がメンタルを助けてくれる理由~-2025年11月27日-

気持ちが落ち込む日が続いたり、不安が強くて動けなくなったり、「どうして自分だけ…」と感じてしまうことはありませんか。現代はストレスに満ちていて、多くの方が心の不調と向き合っています。そんなとき、薬やカウンセリングと並んで、役に立つことが実は「運動」です。

「運動なんて気力がない」「体力がないから無理」と思われるかもしれません。でも、運動は競技スポーツのように頑張る必要はありません。むしろ、“少し体を動かすこと”が、心の回復に大きく関わっていることが、医学的にも分かってきています。

運動をすると、脳の中で「幸せホルモン」と呼ばれる物質が増えます。たとえば、気分を整えるセロトニンや、意欲や喜びを感じるドーパミンです。これらが増えることで、落ち込みや不安が少し和らぎ、「やってみよう」という気持ちにつながりやすくなります。また、脳の働きを助ける栄養因子(BDNF)が増え、思考力や集中力が少しずつ戻ってくるといわれています。

さらに、運動はストレスホルモン「コルチゾール」を抑えてくれる働きもあります。ストレスが続くと心も体もしんどくなりますが、運動するとリラックスしやすくなり、夜の眠りも深くなりやすいのです。「よく眠れた」という実感は、それだけで心の負担をグッと減らしてくれます。

では、どんな運動が良いのでしょう?
実は、特別なことをする必要はありません。
・散歩
・軽いストレッチ
・ラジオ体操
・ゆるいヨガ
これだけでも十分です。
1日10分でも、外の空気を吸って歩くだけでも、心は少し軽くなります。

それでも動き出すのが大変なときは、無理をしなくて大丈夫です。たとえば、
「今日は服を着替えられた」
「玄関まで行けた」
「少し歩けた」
その一つひとつが、とても大切な回復のステップです。できなかった日があっても気にしなくて構いません。“少しずつ”が何よりの鍵です。

また、外に出て日光を浴びると、体内時計が整い、気分も改善しやすくなります。人とのちょっとした挨拶や会話が生まれるだけでも、「社会とつながっている」という安心感につながります。

もちろん、気持ちがとてもつらい時期には、運動どころではないこともあります。その場合は、治療を優先し、無理をしないことが大切です。主治医と相談しながら、できるタイミングが来たら、少しずつ取り入れてみてください。

心と体はひとつ。
体が少し動き始めると、心も少しずつ前を向きます。
あなたのペースで、できるときに、できるだけ。

その小さな一歩が、確かにあなたを助けてくれます。
焦らず、一緒に進んでいきましょう。

傷病手当について -2025年11月17日-

病手当金とは、病気やけがで働けなくなったときに、生活の安定を支援するために支給される公的な給付制度です。主に健康保険に加入している被用者(会社員など)が対象であり、業務外の傷病により仕事を休まざるを得ない場合に、所得の一部を補う役割を果たします。以下では、その仕組みと要件、手続き、注意点について説明します。

支給の目的と意義
傷病手当金の目的は、病気やけがで休業した際に収入が途絶えることを防ぎ、治療に専念できるよう支援することにあります。労災による休業補償が「仕事中・通勤中の事故等」に限定されるのに対し、傷病手当金は「私的な病気やけが」に対して適用される点が特徴です。したがって、インフルエンザ、うつ病、手術後の療養など、さまざまなケースで利用可能です。

支給要件
傷病手当金を受けるには、次の4つの条件をすべて満たす必要があります。

  1. 業務外の理由による病気・けがであること
     仕事が原因の傷病(労災)は対象外です。

  2. 療養のため仕事に就けないこと
     医師の診断により「労務不能」と認められる必要があります。部分的な勤務が可能な場合は、勤務日数や時間に応じて減額や不支給となることがあります。

  3. 連続して3日間休んだ後、4日目以降も休業していること
     最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、土日祝を含めて3日間連続で休むとカウントされます。4日目以降の休業日から支給対象となります。

  4. 給与の支払いがない、または減額されていること
     休業中に事業主から十分な給与が支払われている場合は支給されません。給与の一部支払いがある場合は、差額分のみ支給されます。


支給金額と期間

支給額は、標準報酬日額の3分の2(約67%) が目安です。標準報酬日額とは、過去12か月の給与(標準報酬月額)をもとに計算される1日あたりの平均報酬額を指します。

支給期間は、最長で1年6か月。この期間は「最初に休業した日」から起算され、途中で職場復帰しても、同一傷病で再び休業した場合は通算されます。

手続きの流れ
手続きは通常、勤務先を通じて行います。

  1. 医師に「労務不能証明」を記入してもらう。

  2. 会社が「事業主記入欄」に勤務状況や給与支給状況を記入。

  3. 健康保険組合または協会けんぽに申請書を提出。

提出後、内容が確認され、通常1〜2か月程度で支給が開始されます。

注意点と併用関係

  • 退職後も支給される場合がある:退職日に労務不能であり、かつ被保険者期間が1年以上あれば、退職後も引き続き受給可能です。

  • 出産手当金や労災補償との重複不可:同一期間に他の給付を受けている場合は、重複して支給されません。

  • 雇用保険の失業給付とは併給できない:休業中は「就労可能」ではないため、失業給付の対象外となります。


まとめ
傷病手当金は、働く人の健康と生活を支える大切な制度です。特に精神疾患や慢性疾患で長期休業が必要な場合、収入の不安を軽減し、回復に集中できる環境を整えることができます。申請には医師・会社・保険者の連携が必要なため、早めに主治医や人事担当者に相談することが重要です。

寒くなってきた時期のメンタルヘルス -2025年11月11日-

寒さが増してくる季節は、身体だけでなく心にも大きな影響を及ぼします。日照時間の短縮や気温の低下により、人の生体リズムやホルモン分泌が変化し、気分の落ち込みや意欲低下を感じやすくなります。以下では、寒くなってきた時期に特に意識したいメンタルヘルス対策を、医学的根拠と実践的工夫の両面から解説します。

① 光と生活リズムを整える

冬季に多く見られる気分の落ち込みには「季節性うつ病(冬季うつ)」が関係していることがあります。これは日照時間の減少により、脳内のセロトニンやメラトニンのバランスが崩れるためと考えられています。
できるだけ朝の光を浴びることが重要です。起床後1時間以内にカーテンを開け、外の光を5〜10分でも浴びることで体内時計がリセットされ、睡眠と覚醒のリズムが整います。もし日照が少ない地域や時間帯が多い場合は、「高照度光療法用ライト」やデスクライトの活用も有効です。

② 適度な運動で血流を維持する

寒い時期は身体がこわばり、外出機会も減りがちです。しかし、軽い運動はうつ予防の有効な手段とされています。ウォーキング、ストレッチ、ヨガなど、15〜30分程度体を動かすだけでも、脳内でセロトニンやエンドルフィンが分泌され、気分が明るくなります。
「気分が落ちている時こそ、あえて体を動かす」ことがポイントです。屋内でも手軽にできる運動(ラジオ体操、室内ウォーキング、スクワットなど)を日課にするとよいでしょう。

③ 栄養と睡眠を整える

冬場はエネルギー消費が増え、栄養バランスが乱れやすくなります。ビタミンD(日光により合成され、セロトニン生成にも関与)や鉄分・タンパク質(神経伝達物質の材料)が不足しないように意識しましょう。魚・卵・豆類・野菜を組み合わせた温かい食事がおすすめです。
また、寒い夜は寝つきが悪くなることもあります。寝室の温度を18〜20℃前後に保ち、就寝前のスマートフォン使用を控え、一定の時刻に寝起きすることで、睡眠の質を維持できます。

④ 人とのつながりを保つ

冬季は人と会う機会が減り、孤立感が強まることがあります。特にリモートワークや独居の方は、意識的に「人と話す時間」を確保しましょう。オンラインでも構いません。
また、感謝や近況を共有することが、ポジティブな感情を高めることが知られています。挨拶やちょっとしたメッセージのやりとりが、心の温度を保つ小さな習慣になります。

⑤ 無理をせず、早めの相談を

冬場の落ち込みは「季節のせい」として見過ごされがちですが、2週間以上気分の低下や睡眠・食欲の変化が続く場合は、医療機関やカウンセラーへの相談を検討してください。早期に支援を受けることで回復が早まります。

まとめ

寒さが増す季節には、身体的な冷えだけでなく、心理的な“心の冷え”にも注意が必要です。
朝の光、適度な運動、栄養と睡眠の管理、人とのつながりを意識することで、冬のメンタルダウンを予防できます。気分の変化を自分のせいとせず、「季節に合わせたセルフケア」を心がけることが、心身の健康を守る第一歩です。

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