-精神科コラム- 2025年4月

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発達障害と統合失調症の鑑別ポイント -2025年4月25日-

今回は、発達障害(自閉スペクトラム症〈ASD〉や注意欠如・多動症〈ADHD〉)と、若くに発症する統合失調症との鑑別ポイントを解説します。



【若年性統合失調症の診断基準と特徴】

統合失調症は、現実との接点が失われる「精神病性障害」に分類され、妄想や幻覚、思考障害、感情や行動の異常などが持続的に現れる疾患です。若年性統合失調症は、10代から20代前半という発達過程で発症するため、症状の現れ方や診断には特有の難しさがあります。


DSM-5における主な診断基準(抜粋):

A. 主要症状(2つ以上。1つは①〜③のいずれか必須)

  1. 妄想

  2. 幻覚(特に幻聴が多い)

  3. まとまりのない話し方(話の飛躍、文脈のズレ)

  4. ひどくまとまりのない行動または緊張病性行動

  5. 陰性症状(意欲低下、感情表出の減退)

B. 機能低下
発症前と比べ、学業、社会活動、対人関係で明らかな支障が生じる。

C. 持続期間
症状が6か月以上持続し、そのうち1か月はAの症状が明確に存在すること。



【若年性統合失調症の臨床的特徴】

  • 発症の曖昧さ
     初期には不登校、引きこもり、学力低下など、思春期特有の変化と区別がつきにくい。

  • 幻聴の頻度
     「声が聞こえる」「悪口を言われている」といった体験を訴える。

  • 陰性症状の目立ちやすさ
     無関心、感情表現の乏しさ、会話の減少などが徐々に進行。

  • 病識の欠如
     本人は自分の症状を病気と認識していないため、治療への協力が得にくい。



【発達障害との鑑別】

若年性統合失調症と**発達障害(ASDやADHD)**の症状は一部重複するため、鑑別が非常に重要です。以下に主な違いを示します。

比較項目 若年性統合失調症 発達障害(ASD/ADHD)
発症時期 思春期以降(急性または亜急性) 幼児期から明確に見られる
幻覚・妄想 明確に存在(特に幻聴) 原則として見られない
思考の障害 話が飛躍する、脈絡がなくなる 論理性はあるが、言葉の使い方に偏りがある(ASD)
社会性の問題 病前は正常でも急激に対人関係が悪化する 幼少期から対人関係に一貫した困難
感情表現 感情の平板化、無表情 ASDでは感情の表現が独特だが一貫性あり
病識 乏しい/欠如(自分が病気と気づかない) 多くは自分の困り感にある程度自覚がある
行動の変化 急激な生活機能の低下 徐々に見られる。変化は緩やか


【鑑別診断のためのポイント】

  • 家族・学校からの情報が鍵:発症前の発達歴や行動パターンの把握が重要です。

  • 認知機能検査や精神状態評価:WISCなどの知能検査、SCTやロールシャッハなどの投影法も有効。

  • 幻覚や妄想の有無の丁寧な聴取:本人の語る「内的な声」が現実検討の障害によるものかどうかを見極めます。



若年性統合失調症と発達障害の鑑別は、特に症状が重なる「初期の段階」で難しく、見落とされやすいため、多角的な視点(発達歴・症状の質・経過・家族背景など)での評価が求められます。早期介入によって、本人の社会適応力や学業・就労の可能性を大きく支えることができるため、正確な診断が極めて重要です。

部署異動、転職後のこころのケアについて -2025年4月15日-

精神科医からのアドバイス

部署異動や転職は、人生の中でも大きな変化の一つです。新しい環境、新しい人間関係、新しい業務内容。それらに順応しようとする中で、心身にさまざまな負担がかかるのはごく自然なことです。精神科医として、そんな変化を迎えたあなたに、少しでも安心して新しい一歩を踏み出していただけるよう、いくつかのアドバイスをお伝えしたいと思います。

まず最初に知っておいてほしいのは、「慣れるまでに時間がかかるのは当たり前」ということです。新しい環境では、緊張や不安を感じるのは自然な反応です。特に最初の1~3ヶ月は、「自分がこの場にふさわしいのか」「うまくやれるだろうか」と自問する場面が多いかもしれません。しかし、これは成長しようとするあなたの証でもあり、多くの方が通る道です。

ここで大切なのは、「完璧を目指さないこと」。新しい職場や部署では、まだ知らないことがあるのが普通です。すべてを完璧にこなそうとすると、かえって心が疲弊してしまいます。最初のうちは「学ぶ時期」と割り切り、自分に優しく、少しずつ前進していくことを心がけましょう。

また、周囲とのコミュニケーションも無理のない範囲で大切にしてください。誰かに話を聞いてもらうことは、不安を軽くし、安心感を得るための助けになります。信頼できる上司や同僚に小さな悩みを共有するだけでも、心がぐっと軽くなることがあります。無理に自分を良く見せようとせず、自然体のまま接することが、良好な人間関係を築く第一歩です。

睡眠・食事・運動といった基本的な生活習慣を整えることも、心の健康を保つためにはとても重要です。特に睡眠は、ストレスへの耐性を高め、心を落ち着ける大きな役割を果たします。新しい環境に慣れようと頑張るあまり、夜更かしをしたり、食事が不規則になったりしないよう、意識して生活リズムを保ちましょう。

そして何より、調子が出ないと感じたときには、「休む」ことを恐れないでください。人は誰しも、エネルギーが切れることがあります。そんな時は、立ち止まり、深呼吸をして、自分の心の声に耳を傾けてみてください。心の不調が長引く場合は、早めに専門家のサポートを受けることも選択肢の一つです。早期に対処することで、よりスムーズに回復することが可能です。

部署異動や転職は、新しい可能性への扉でもあります。焦らず、自分のペースで進んでいきましょう。あなたの頑張りは、きっと未来の自分への大きな力となります。

――心が疲れたときには、この言葉を思い出してください――
「変化に戸惑うのは、前に進もうとしている証拠です。」

あなたが健やかに、新しい環境で自分らしく過ごせることを、心から応援しています。

新入社員の季節 -2025年4月1日-

新入社員として4月から社会に出る際、精神面で気をつけるべきことは多岐にわたります。特に、環境が一変することや、これまで経験したことのない仕事の責任を負うことから、精神的な負担を感じることがあるでしょう。ここでは、そんな時期を乗り越えるための心構えやケアの方法について解説します。

1. 完璧を求めすぎない

新入社員は、初めての仕事に挑む際、ミスを避けたいという気持ちから完璧を目指すことが多いですが、それが精神的なプレッシャーとなることがあります。最初から完璧を目指すのではなく、まずは学ぶ姿勢を持つことが大切です。ミスは誰にでも起こりうるものですし、それを恐れるよりも、ミスから学ぶ姿勢を持つことが大事です。新人として学びの時間を与えられていることを理解し、自分自身に過度なプレッシャーをかけないようにしましょう。

2. 自分のペースを大切にする

新しい環境に慣れるのには時間がかかります。周囲が速いペースで働いているように見えることもあるかもしれませんが、自分のペースを守ることが重要です。焦るとミスが増える可能性が高まり、結果として自信を喪失することにもつながります。まずは一つひとつのタスクを丁寧にこなしていくことを意識しましょう。また、周囲の助けを借りることも大切です。質問することやアドバイスを求めることに恥ずかしさを感じる必要はありません。

3. ストレスマネジメントを心がける

新しい仕事や環境に適応する過程で、精神的なストレスを感じることは避けられません。そのため、自己管理としてストレスを発散する方法を見つけておくことが重要です。運動や趣味の時間を確保する、友人や家族とコミュニケーションを取るなど、リフレッシュできる手段を持つことで、精神的なバランスを保つことができます。定期的にリラックスできる時間を設け、自分のメンタルヘルスを管理する習慣をつけましょう。

4. 過度な自己評価を避ける

新入社員は、自分が期待されている役割を果たせていないと感じやすいものです。しかし、他人と比べて自分を過度に批判することは避けるべきです。成長には時間がかかり、すぐに結果を出すことができるわけではありません。自分に厳しすぎる評価を下すことで、自己肯定感が低下し、モチベーションを失う可能性があります。むしろ、日々の小さな成長を評価し、自分自身を認めることが大切です。

5. コミュニケーションを大切にする

職場での人間関係は、精神的な健康に大きな影響を与える要因の一つです。新しい環境でうまくコミュニケーションを取ることが、安心感を得る一助となります。自分が困っていることや、助けが必要なことがあれば、積極的に相談するようにしましょう。また、上司や同僚との関係を良好に保つために、日常的な会話を通じて信頼関係を築くことも重要です。孤立しないように心がけ、周囲との繋がりを大切にしましょう。

6. 自己成長を楽しむ視点を持つ

新入社員としての期間は、成長のチャンスでもあります。自分がこれまで知らなかったことを学び、新しいスキルを習得する過程を楽しむ姿勢が、精神的な安定に繋がります。学びの過程をポジティブに捉えることで、仕事に対するプレッシャーを軽減することができます。また、自分の成長を実感できると、自己肯定感が高まり、仕事への意欲も向上します。

まとめ

新入社員としての精神的な健康を保つためには、完璧を求めず、自分のペースを守り、ストレスマネジメントを意識することが大切です。また、周囲とのコミュニケーションを大切にし、自己成長を楽しむことで、社会人としてのスタートを良い形で切ることができます。焦らず、少しずつ慣れていくことを心がけ、自分自身の成長を大切にしてください。

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